俺の涙は俺が拭くんである

ビームコミックス文庫『いましろたかし傑作短編集』を読む。いましろ漫画をまとめてちゃんと読むのははじめて。本作は95年から02年の間に発表されたものを集めた文庫である。ので、すでに知る人ぞ知るカルト漫画家いましろたかしの看板はほぼ完成してから描かれた作品ばかりである。言わばクセ球を得意とするセルフイメージを引き受けた上で投げ続けられた更なる変化球群といったところか。
中にはラフななぐり書きのようなスケッチと台詞だけのものもある。ギャグ漫画家が一度は迷い込む自身のお笑い感覚の全体どこが面白がられているのか不思議で仕方なくなる自意識のダッチロール。かとも思わせるがそんな狂気を演じながら手抜き原稿を叩きつけて釣りにギャンブルに走り回っているような図々しさもうかがえるような。破滅型人間ネタを得意とする破滅型の漫画家ではあるかもしれないがくれぐれもロマンチックなイメージを持ってくれるなといった気概のようなものを感じなくもない。
パチプロと胸を張らないのが信条の自称パチゴロのダルな日常。ほどなく勝っても全部インチキですよナンマイダなどとうそぶき去っていく主人公に思い入れする読者というのはまたどんな人々なのか。と、考えさせられてしまったのはパチゴロの悲惨なサバイヴを描いたこれらの短編が『パチンカーワールド』なるパチンコ専門誌に掲載されていたということにおののいて。似たり寄ったりのアップダウン生活を続けるパチゴロ達がこうした漫画を読んで共感するのだろうか。落ちぶれ果てたギャンブル仲間から「二百万貸してくださいっ殺されます!」と哀願されたり勝った以上はと連鎖的にソープにだらだらなだれ込んでも体は只もう休みたがっていたり。そんな描写をパチンコ専門誌にて展開する姿勢はなかなかストロングにも思える。
で結局どこにもあまり長く描きたくないのかなこの人はとも思える。最近では雑文だけを集めた単行本も出版したいましろたかしの今後はどんなものかと考える。パチンコと風俗から180度向き直ったクロワッサン風のエコなコラムニストになってしまったり。それともこのまま。『やる気マンマン』みたいにおじいさんになってもドツボの青春を生命のかぎり描き続けるのだろうか。
『八百屋のブラジャー』なる作品のタイトル通りランジェリー姿で商売する商店街の八百屋のオヤジが特に印象的な本作だ。が、この八百屋のオヤジこそが作者のこの当時の世界観なのかとも。すぐに慣れるよ、慣れるかなぁという台詞は本作中唯一の「泣き」だがここもまたシンパシーすなといった。