笑って許してまたお願いするんである

7月26日、シネスイッチ銀座にて岩松了監督作品『たみおのしあわせ』を観る。主演、オダギリジョー。オダギリ演じる民男が何の仕事をしているのか映画では最後までわからない。民男の父、伸男が田舎町の物流センターのような所で働く場面は何度も出てくる。父、伸男を演ずるのは原田芳雄。伸男の勤め先のセールスレディーであり現在の交際相手でもある中年女役に大竹しのぶ。伸男は妻を交通事故で亡くして以来事実上独身。息子の民男の縁談をこれまでにも何度かまとめようとして失敗しながら自身は民男に気遣うポーズで自由恋愛を楽しんでいたり。
その民男の何度目かの縁談の始まりからゴールまでの短い季節の出来事を絵日記風に描く本作は岩松監督にとっては15年ぶりの劇場映画である。前『お墓と離婚』でも現れた残された時間をエンジョイし過ぎている老人カップルも出てくる。『お墓と離婚』ではヒッピーくずれの中年男として主演した小林薫が現役ヒッピーの壮年男として出てくれば忌野清志郎もまたニヤニヤと台詞を棒読みしたり。
エンディングで路線バスに乗った主人公が見知らぬ土地でフラリとと降りてここはどこだと首をかしげるくだりは10年前に岩松了が脚本を手がけたTBSドラマ『恋のためらい』の大団円とほぼ同じだったり。かなり悪ノリのファンサービスの応酬というか。10年たっても15年たっても同じ顔ぶれで同じような脱力コントを作ることができるのがしあわせでなくて何だといった感も確かにある。
「あ、」「うん」「で、どうよ」「よそうや」「よすがね」といった風の空気のような会話のやりとりの中にハッキリと説明することはないが考えようによってはドス黒いなんて物じゃない衝撃の相関図が浮かび上がってこなくもない岩松ワールドは本作においても息づいている。麻生久美子演じる民男の婚約者、瞳が伸男に贈ったネクタイに瞳とわざわざネームまで入れてある場面、そのネクタイを職場の机の引き出しにムヒヒと伸男がしまう場面にはまさかと思わされたり。クライマックスにて結婚式場から伸男と民男が手を握って逃走する場面にはまさかまさかと思わされたり。
画面にはストレートに描写されていないドロドロな相関図をパズルさせながら観ていくことでまったく別の顔が現れる懐かしの名画は数多くあるのだろうし本作を撮影中のオダギリジョーにも色々あったのだろうが。林由美香のAV作品ってちゃんと観たことないわと私は本作を観てフイに気づかされた。ちゃんと観て無理矢理にでも深読み裏読みしてやろうかとも。