世界のデブは親日家気取りである

12月17日、下高井戸シネマにて『THEダイエット!』(07年オーストラリア映画)を観る。監督、関口祐加。89年にパプアニューギニアの日本軍従軍慰安婦を扱ったドキュメントで世界的に注目された関口監督はオーストラリア在住28年の半分、いやほぼオーストラリア人。
本作は自身のダイエットへの挑戦をこれ以上なく赤裸々にさらけだした力作。であるがフライヤーに目を通しただけでは本作のナレーションも対話も全編字幕付きの英語とは気づかなかった。関口監督はいわゆる世界で活躍する日本人の一人のよう。国内にはあまり情報の入ってこない関口監督の出世作である『戦場の女たち』も私は未見である。そちらから入らず『THEダイエット!』から入ってもよいものか。が、本作も『戦場の女たち』に続いてシリアスと言えばシリアスな内容だった。
50歳になる関口監督には42歳で産んだ男の子がいる。「ママはデブだ、食べて太って死ぬよ」と息子にしれっと言われてしまった監督。自身の残された時間というものに向き合う決意を持って専門医のアドバイスを受けるように。郷里の横浜に帰り母親から幼少期の食生活を問い質してみたり。目標があった方がうまくいくだろうとシングルマザーである監督はダイエットと同時進行で婚活も。が、途中担当医がたまたま好みで少女のようにフニャフニャになってしまったり。
欧米型の高カロリー食を育ち盛りの娘に鬼のように与え続けた父親の姿を回想する監督。高カロリー食をもっと食べていれば日本は負けなかったという信条を持つ父親に育てられた関口監督は現在50歳である。戦争責任というテーマに素手で触っても失笑されはしないギリギリの世代かと思う。いや、もしかしたら『THEダイエット!』のノリで笑わせてなんぼの戦後史ドキュメントをこれから関口監督は撮るのかも知れない。それにはまず残り時間の再確認をといったところか。
残り時間をより輝かせるためのパートナー探しはしかし迷走する。50代、子持ち、デブは野球で言えばスリーアウトですと相談所で言い切られる監督。その後一件だけあったアクセス先の男は早速逢おうと鼻息が荒い。「ねぇ、ひとつ聞くけど目的はセックス?」と問う監督の予想通り相手は只のデブ専。だがハンサムな医師ともデブ専ともその後どうなったかはカットされエンディングには新しいパートナーと腕を組む監督のシルエットが。編集でつまみたい箇所、シルエットで処理したい箇所が戦後史にもあるとして。関口監督の次回作はハードコアな展開にならざるを得ないであろう。