パンチョと指差す勇気もないんである

1月28日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて『恋の季節』を観る。監督、井上梅次。ロビーに快楽亭ブラックの姿が。たまたま出かけた映画館でブラックがすぐ近くにという体験はこれで三度目になる。他に街で二度三度すれ違う有名人には伊集院光塚本晋也がいるが当然向こうはこっちを知らないので気弱なストーカーと思われているのかも。
映画はピンキーとキラーズの大ヒット曲『恋の季節』を奈美悦子主演でメロドラマ化したもの。ピンキーは奈美悦子と高校の同級生で卒業間近になって追試に通わされる学内ツートップの劣等生。試験管役でミッキー安川が登場する。当時はお笑い寄りの人だったのだ。当時のお笑いなのですっとんきょうな声を張り上げて白目をむいて尻もちをつくぐらいのギャグしかやらない。が、晩年の好戦的過ぎてテレビに出られなくなった総会屋のようなミッキーと対比すると妙におかしい。
そしてピンキーも当時は超人気アイドルである。以前上岡龍太郎が共演者で一番嫌なのが昔アイドルで今は懐メロ歌手の類で必ずお笑いにまでなめられてたまるかとピリピリしてると語っていたが。ピンキーなどはその典型かなと私は勝手に想像した。そして私にとってピンキラやセルスターズは幼年期のトラウマでもあった。生演奏がさせてもらえない歌番組でいい歳をした大人たちがフンフン、チュルチュルと合いの手を入れるだけの姿が異様に思えたのだ。同世代でピンキラが怖いという声を聞いたことはまだないがきっと共感してくれる人々もいると思うが。
そして奈美悦子もまた当時はバリバリのアイドルである。その奈美悦子のボーイフレンドが「新スター」の森田健作である。まだ青春路線に入る前の軟派な青年役で強引にキスを迫ってブッ飛ばされたりする。本作には奈美悦子の妹役で早瀬久美が登場する。数年後に一生ものの看板になる大ヒットドラマで共演することをまだ二人は知らない。当時二人の間に何か不具合が生じていたらあのドラマはもっと盛り下がっていたはず。そうなると新スター森田健作は青春の巨匠にもなれなかったはずでそうなると政界進出もなかったはずである。ということは本作がなければ現在の森田健作はなかったといえる。
ビーチボーイズルックでダンスパーティでドラムをたたく新スター森田健作をただそれだけのポッと出のデビュー当時の野村宏伸みたいなチャラ男と思って観ることは今では難しい。だが間違いなくこの時は右も左もわからないチャラ男だったのだ。昭和四十四年。私はスターより七三分けに憧れていたが。