逢う時には何時でも他人の空似である

11月2日、近所のモスバーガーでコーヒーとバーガーのセットを食べても満ち足らずそのまま歩いて数分のタイ料理の店へ。二階へどうぞと案内されて二階へ上がる。二階は私の住む木造モルタルの四畳半とまったく同じ素部屋であった。小さな卓が四つ並んでおり私の他にOL客一組とカップル客が一組もうピチャピチャ食事を始めている。私も卓に陣取って鶏肉ビーフンを注文。自分の住まいと同じスペースで外食するのもまた妙な感覚なのだが。二十年くらい前に大学生たちが考えた珍商売の中に自宅喫茶というものがあったような。文字通り自宅にビールケースで作ったテーブルと座布団を用意して一応の沸かし珈琲とスナック菓子を出すだけのサービスだったが値段は通常の店の半額なので苦学生の間で一時流行してたような。あれに似た感覚かしらんとも思ったが運ばれてきた鶏肉ビーフンは本格的で美味だった。カップル客と思った男女はどうもバイト先の同僚のよう。あまり互いの事情を知らないようで兄弟いるのとかお酢かけるとか遠慮がちに問いかけあっているが。仮に今私とOL組がこの場にいなかったらどうだろうか。ほとんど自宅のような素部屋に白昼二人だけにされてしまったら。一方が一方を意識している場合ならまだそれなりの攻防があるだけだろう。が、どちらも特に意識していなかった場合はかなり気まずいのではないか。早く誰か後から上がってきてくれないかと思った時に限って誰もこなかったり。もう面倒くさいから口説きにかかるというのも大人の男の心理にはあるかも知れない。普通の人になるからパチンコひかえなきゃと最後の舞台でもらしていた大崎悠里のことを私は思い出した。普通のOLになって普通の上司と昼食に出かけるのも新鮮だろうなと。温泉場の酔客に助平な冗談でからかわれるのは慣れていても普通の上司の下ネタにはどう対応していいかわからないのかも。ズッキーニってのは体に良さげだねか何か野菜汁をすすりつつニヤける上司にズッキーニでボッキーニですかなどと乗っかり過ぎて逆に引かれたり。そんな風に堅気の世界にも息苦しさを感じて映画『竜二』のエンディングのようにまた夜の新宿に彼女が舞い戻ってくるのを期待している私なのだが。彼女にものすごく似ているセールスレディに自宅のような素部屋であれこれ勧められたら無い袖も振ってしまいそうな。そもそもそういう商談のためにこのような店はあるのかとも。二階ちょっといいかななどとこのような店ののれんをくぐる大崎悠里(仮名)のことを思い浮かべると再び股間がうずいた。