と、ここまでが幸せの絶頂。三月、

4月10日、近所の図書館まで出向く。DVDコーナーに向田邦子のドラマシリーズが揃っていたので新春ドラマ『春が来た』(82年テレビ朝日)を観ることに。オープニングは談話室のような純喫茶で男女がお見合いのまねごとをする場面から。松田優作演じる営業マンの風見が仕入れ先のデパートガール直子を誘って家庭のことを問いかける。デパートガールを演じるのは今より色黒で少しふっくらした桃井かおり。同じ頃の風吹ジュンに似ている。
家庭のことを聞かれた直子は失業中の父親を代理店の重役だとかオタクの妹を詩人になるだろうとか随分な見栄をはってしまう。母親は無学だがみそ汁のだしはカツオブシからとる古風な女だと続けるとそれはいいと食いつく風見にしめたと思う直子だが。フランス料理を食べに行く途中でケガをしてしまう直子を家まで送ると家庭の事情は明らかに。すすけた食膳には「まとめて買うと安いから」とテーブルにあふれた乳酸飲料。出前の並寿司をお金なら出すから上に変えてきてよと母親に泣きつく直子。それ以前に家屋全体のブルース感にあわわとなる風見。
その後も親子4人日がな薄暗い茶の間に集まり見たくもないテレビを見て食べたくもないスナック菓子をむさぼりあう現状にあんたらのせいで自分はもうどうにもならないとぼやく直子。親はいつまでも生きていない、この間の人と終ったのは自分の魅力の問題でしょうとやり返す母親。が、風見はそれから毎週末には直子の家に食事に寄るように。年が暮れる頃には家族同然になり正月には温泉町のハワイアンセンターに家長のように一家を引き連れて行く。「あなたって神様みたい」と旅館のディスコティックで『メリージェーン』に揺られながら風見にささやく直子。と、ここまでが幸せの絶頂。
3月、ひなまつりの仕度なぞ何年かぶりに始めて着物を新調する母親。一方風見は直子を呼び出してこの話自信がないんだと胸の内を打ち明ける。身寄りのない風見にとって相手の家族が皆本気で歓迎していて経済的にも今より不自由はさせないことは客観的には結構な話だが。「君も君の家族も大好きだよ、でも自信がないんだ」と風見に言われると直子も何も言えず身を引く。と、その直後に母親は急死する。
神様みたいだった風見は何か霊的な直眼で直子の家から離れたよう。それは自身の為か直子の為か。神様みたいにも見えるうらぶれた営業マン役にリアリティをもたせられる俳優ってもうちょっといないなァと私は思った。ドラマも最近はねぇなどともう言わない方がとも。自信がないんだ。