最初の台詞でほぼ全編の内容を説明

4月30日、『セックス・チェック 第二の性』(68年大映)を観る。監督、増村保造メキシコオリンピックをめざす社会人陸上部のグランド。コーチに招かれた緒形拳演じる元陸上選手に会社側は言う。名スプリンターだった貴方がコーチしてくだされば私の計画は九分通り完成したようなものですよ。最初の台詞でほぼ全編の内容を説明してしまう増村調は『スチュワーデス物語』の頃には不条理コントとしてウケてはいたが。わからない者は放置してわかる者にだけわからせるのが不条理コントだとすれば増村作品は不条理ではない。向き合いつつ言い争う人物同士の中央に草が生い茂っておりその草をかき分け登場した第三者が今貴様の目の前にいる男は13年前に貴様の父親を自殺に追い込み云々と劇中の相関図をほぼ全編説明する増村調。誰と誰がどういういきさつでこれから何をするのかそんなことを考えながら観る者への先制攻撃のようだ。見ろよこのケツをこの脚をと安田道代演じるスプリンターの体をわしづかみして会社側に自慢する緒形。じゃあケツを見て脚を見ますという観客も本作公開時の増村は望むところと受け入れたであろう。だが『スチュワーデス物語』の当時の反響にはこたえたのではないか。『セックス・チェック』の後半で田舎に逃げ帰った安田を追いかけてきた緒形が農家の庭先で俺だ、出てこいと呼ぶと同時に玄関の戸をビシャリと開けて安田はすぐ出てくる。二十余年前の増村ブームの最中の名画座ではこのシーンで学生客らが爆笑した。まるでコントのようなテンポと段取りに私も笑った。観客席にはオールドファンもいたはずで今は申し訳ないような。しかし増村調のいきなりなテンポと段取りがただバカバカしくて私は笑ったのではない。バカバカしくも素晴らしかったから笑ったのだ。両性具有の安田に俺が好きか、ならば恋人になれ女になれと昼夜しごく緒形。安田は完全な女性スプリンターに。セックスチェックで女性と認められなかった安田を今度こそこいつが女だってことを証明してやると息巻く緒形に診察医はどうする気だと問う場面。もう緒形は安田を脱がして自分も半裸になっている。こいつをお前の前で抱くのさという台詞の数秒前にはあの時観客席は爆笑の渦だった。が、そのせいで後に続くどうしたなぜ見ないという重要な台詞を聞き逃していたのだ。これでも診断書が書けんか、これでもかとからみ合う緒形が当時の理想の上司のイメージと落差があり過ぎただけで笑ったのか。いやバカバカしくも素晴らしかったのは「これでもか!」の応酬。