間違いなく傑作なんだろうなと思いつつ

1月17日、丸尾末広の『パノラマ島綺譚』(08年エンターブレイン)を読む。江戸川乱歩の原作小説を“日本漫画界が世界に誇る魔神・丸尾末広が、長き沈黙から覚醒し、満を持して挑むは”第13回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した本作である。間違いなく傑作なんだろうなと思いつつなぜか入手できずに六年過ぎてしまった。丸尾末広はその後完全復帰して単行本も続々刊行している様子。小説『パノラマ島綺譚』は何度も映像化されている。が、土曜ワイド劇場版『天国と地獄の美女』を始め国内で過去映像化された物語の舞台となる人口楽園は誰が演出しようと結局国際秘宝館のような成人向き遊園地に仕上がってしまう。それはそれでいい、乱歩ワールド=国際秘宝館ともいえるのだからと私なぞも期待してきたのだが。丸尾末広描くところの『パノラマ島綺譚』はスケール感と大正末期の人々の暮らしぶりをことこまかに描写しきった点で一人勝ちの感が。秘宝館的狙いの元の安普請はまるでなく80年代と変わらぬテンションで見事乱歩ワールドをゼロ年代に拡張した。ストーリー展開は原作にほぼ忠実だがより分かりやすく飲み込みやすい。主人公の三流文士、人見広介が自分と瓜二つの名家の跡取りの学友が急死したところへ自らが死者が蘇生したかのごとくなりすまして資産を乗っ取り夢の人口楽園を実現させる大筋はそのままである。原作では結末近くにいきなり現われた北見小五郎に人見が正体を暴かれ自爆に至るきっかけとしてこれもいきなり人見の「遺作」であるユートピア小説『RAの話』の件が持ち出される。戸籍上は故人である人物が残した小説の中の人口楽園を蘇生したとされる瓜二つの学友が全財産を投げ打って実現させようとしている。恐らく蘇生したはずの名家の跡取りは三流文士のなりすましではという収束は原作では結末に唐突に出てくる。丸尾版では冒頭にその小説が没になる前ふりがありずっとすっきりする。本作全編二百七十頁中残り十頁に差しかかりようやく登場する明智探偵が強引に幕を引く急展開は秘宝館とはまた別の切り口で乱歩ワールドのキッチュな毒気を守っている。やはり文句なしの傑作だった。80年代の丸尾作品によく見られた人物の描写がどうも昭和史、昭和犯罪史上の怪物に似せてある悪戯を本作に探してみると。どうやら主人公はウォルト・ディズニーのよう。パリ、ロンドンより青写真を盗用した人口楽園を非道な手段により地上に実現させた三流文士=ウォルト・ディズニーともいえるのだろうかと納得しかけたり。丸尾末広の土性骨にはただ敬服。