笑わば笑えといった経済事情の中で

1月17日、『円谷プロ特撮ドラマDVDコレクション50号』(ディアゴスティーニ)より『怪奇大作戦 第22話 果てしなき暴走』を観る。脚本、市川森一。『怪奇大作戦』は68年、TBSで放映された“科学を悪用して犯罪をおかす者と正義と科学を守る者との対決を描く怪奇犯罪ドラマである”が、当時人気の海外ドラマ『スパイ大作戦』や『宇宙大作戦/スタートレック』のような作品を国内で半分の時間尺と比較にならない低予算で作り上げた壮絶なカルト番組。本作の市川森一脚本には謎のスポーツカーが撒き散らす特殊ガスで後続車の運転手が錯乱状態になり事故を起こすがスポーツカーの持ち主のアイドル歌手はシロ、スポーツカーの整備士はクロに近いシロ。真犯人は行方知れず。あえて言うなら現代の車社会そのものが真犯人ではという一応の筋書きはある。が、それらは『怪奇大作戦大全』(双葉社)の作品解説を今読んで初めて気づかされること。本編を繰り返し観るにつけ感じるこの人たち一体何をしてるのかという疑問はシリーズ全編にも。68年、東芝よりデビューしたジャックスの印象について中村とうようが「新しさということで言えばまさに最先端だった。しかも、アイデアが演奏力を超えていて、やりたいことが充分こなせないモドカシサが丸見え」(レコード・コレクターズ 94年11月号)と評しているがまさしくそこに通じる感が。科学捜査研究所、SRIの本部に集まるメンバーたちの吐く息は白い。当時のスタジオはそれほど寒かったのだろう。暖房すらままならないスタジオでハイウェイを走行中の車から遠隔操作で運転手を緊急脱出させてパラシュートで無事一命をとりとめる様子をレーダー画面で見守る演技をしているSRIのメンバーたち。笑わば笑えといった経済事情の中で最先端の科学で悪を討つ怪奇犯罪ドラマを作り上げたその心意気。まるで藁と材木で作った対空砲と戦闘機のような手作り手弁当の悪戦苦闘ぶりは近年『野火』で塚本晋也監督が見せた段ボール製の装甲車の活躍を思わせる。心意気だけは受け止めたい健気さが『怪奇大作』にもジャックスにも塚本版『野火』にもあるのだ。そこで演じられる野蛮は途上国の大道芸人が頼みもしないのに目の前で顔面に針を刺してみせる姿勢とはほんの少しだが違う。本作『果てしなき暴走』における笑わば笑えという姿勢はあくまでポーズなのだ。笑わせる余裕などないのが実情だったとしてもまだ何者かに屈しきるまいという意地というかやはり心意気が。