歴史の上では『解体新書』といえば

1月13日、みなもと太郎 著『風雲児たち蘭学革命篇』(リイド社)を読む。本書はNHKの正月時代劇として三谷幸喜脚本でドラマ化されたばかり。みなもと太郎による原作漫画は40年近くも連載されている超大作だが。本書は三谷脚本がつまんだ蘭学者前野良沢杉田玄白蘭語(オランダ語 ) の解剖書、『解体新書』の翻訳本を刊行するまでの顛末を再編集したもの。ドラマでは原作に登場する更なる風雲児たちも通りすがりに続々と略歴付きでご紹介までといった展開に。興味のある向きは全29巻、以下続刊の原作漫画を紐解いてみてはということか。歴史の上では『解体新書』といえば杉田玄白と伝えられているも実質的なリーダーは前野良沢であり刊行直前に感情のもつれから降板した良沢の側から見た蘭学事始めというのが本書の視点。歴史好きがよく肩入れしたがる年表からこぼれた幻の天下人ものというのか。みなもと太郎の単行本が今この時代の大型書店に平積みされている歴史的事実にずっこけた昭和40年代男は少なくなかったのでは。本書に収められた作品が発表されたのは80年代初頭。楽屋落ちギャグに登場するタモリアゴ&キンゾーいがらしみきおといった名前には時代を感ず。特にタモリは"日本史上最大の奇才"である平賀源内の再来のように描かれている。みなもと太郎タモリに当時何か接点があったのかどうか。タモリの無名時代からの相談役といえば赤塚不二夫ビートたけしの無名時代からの相談役といえば高信太郎。当時のみなもと太郎がじゃあ俺もタモリと言いたいところだけどアゴ&キンゾーでと考えていたかどうか。歴史を逆読みさせてもらえば当時のアゴ&キンゾーに目をかけるのは現在のは現在のネルソンズに目をかけるようなものかと。只、いがらしみきおにこの時点で目をかけるのは後にギャグ漫画界の闇将軍のような立ち位置に至る著者らしいというか。本書の後半で良沢が翻訳原稿を国士である通訳者に国内最高水準と認められるも自分の蘭学なぞカスみたいなもの、それで日本一ならこの国の実力とは一体という憤りは恐らくみなもと太郎の胸の奥にも三谷幸喜の胸の奥にもあるはず。80年代半ば、カンヌでグランプリを競い合った『楢山節孝』と『戦場のメリークリスマス』のどちらが日本アカデミー賞を手にするのかと本気で苦悶する日本人が一人でもいたか。いたらどうかしてると今現在『陽暉楼』という作品の前で両手を合わせ涙する日本人が一人でもいるか。いたらどうかしてる。絶対にどうかしてる。