かわいがられるのもなめられるのも

4月29日、THE FOOLS の『Weed War』(Good Lovin)を聴く。84年発売時「大麻不法所持により全員逮捕。現在も1名拘留中のままデビュー!」と広告文に記される悪党ぶりに熱狂したファンは少数派。そんなファンの一人が昨年末に十年がかりのフールズのドキュメント映画を公開した。高橋慎一監督作品『THE FOOLS 愚か者たちの歌』がそれだが映画の中で本作の制作費をどうやって捻出したのかという問いにボーカルの伊藤耕は当時イタリア人の売人と組んで大麻で荒稼ぎしてたからとあっさり語る。ウィードとは広くは雑草の意味だが俗語では大麻のこと。フールズと交流の深い山口富士夫の復活ライブには大人ぶって渋谷クロコダイルまで観に行った私だがフールズは観に行かず音源も買わず雑誌でながめるだけ。80年代半ばに十代だった私にはカリスマとも兄貴とも呼べない伊藤耕の魅力はつかみきれず。その年ごろに輸入レコード店やグッズ屋などロックをお勉強する場所で出会うそれ風の従業員との距離感というのか。かわいがられるのもなめられるのもあまり面白くないような。オープニング『MR.FREEDOM』の「もっともっと自由が欲しい」、「自由が最高 自由が最高さ」の「自由」とは清志郎の「自由」とも尾崎豊の「自由」ともニュアンスが異なるよう。ミュージシャンにとって出自は重要だがフールズには米軍基地育ちだからとか在日だからとか実はインテリ家庭だとか御曹司だとかの意味付けができない。まさに市井の要注意人物と感じて近寄らなかった若者も多かったのでは。今頃になって私がフールズに関心をもつきっかけは伊藤耕の服役中の「事故死」にまつわる新聞報道だが。フールズの前身である自殺というバンド名を知ったのも新聞の文化面だった。一部の過激な若者の風俗として社会の眼からは注視されていたフールズの立ち位置は今も変わらないように思う。『WAKENANKANAISA』の「Yeah だから神さま 俺を見捨ててかまわないのさ」、「天国も地獄も望み次第さ」、「わけなんか わけなんかないのさ」の吹っ切れかたも同世代のアーティストのそれとは違う。野育ちでそれほど悪い大人にだまされきた訳でもないのに閉鎖的でひりひりした立ち振る舞いはドラッグの影響を脇に置いても彼等ならではのもの。一度くらいはライブで観たかった気もするが何がそんなに怖かったのか。当時ならアイドルのライブで親衛隊を無視して勝手に声援する方が余程怖い思いをさせられたはず。