デカイっちゃ全部デカイけどそれでも

6月3日、森田芳光監督作品、『ピンクカット太く愛して深く愛して』(83年日活)をDVDで観る。主演、伊藤克信。いやピンク映画のメインはあくまで女優であるから本作の主演はポルノ界の聖子ちゃん、寺島まゆみとポルノ界の百恵ちゃん、井上麻衣か。
当時十代半ばの私にとって井上麻衣はほぼ理想にかなった肉体派女優であった。今改めて観ると随分なオバハン体型だが当時はこれがたまらん魅力だったような。昔の巨乳ものビデオに出てくる女優陣が皆ダンプ松本並にデカイっちゃ全部デカイけどそれでもありがたかった時代の気分を思い出した。
本作の井上麻衣は伊藤克信演じる就活中の大学生の便利女。有名企業に門前払いをくらって心細くなると都合よく下宿を訪ねてくれるので即座に愛欲におぼれる展開が何度も繰り返される。初期の森田作品によくある人物設定。さえない独身男が高嶺の花のマドンナを追い求め始めるが同時進行でなれあいの女友達との関係も続くという。私の場合なれあいの便利女役の女優に魅力を感じてしまうことが多々あった。が、これは観客を作品に引きつける森田流のテクニックだったのかもしれない。『家族ゲーム』で笑っちゃうほどブスでバカないじめられ少女役の前川麻子が充分キュートだった例もそれだったかと。
本作でも伊藤克信が夢中になる女美容師役の寺島まゆみは他の出演作と比べても淡泊であまり男好きしないさっぱりしたヒロインを演じている。その寺島まゆみ伊藤克信に対してはお友達感覚で素っ気なく接している。一方いつでも自由にできる井上麻衣の方は見るからに男好きする依存症風のねっとりキャラで伊藤克信が就活に打ち勝つためならとフロントホックブラや長襦袢を用意して濃厚なサービスに余念がない。おかしいではないか。寺島まゆみより井上麻衣の方が断然魅力ではないのかとくすぶり始める観客は森田映画のねじれた世界観にそれどゆコト?と首をひねりつつもその後の展開から目が離せなくなる。『メインテーマ』で野村宏伸薬師丸ひろ子そっちのけで桃井かおりにつきまとうのも同じ手法であったかと。
森田映画に登場する伊藤克信は高嶺の花のマドンナと割とあっさり関係を持ったり何だかんだと関係を持つ果報者だ。が、関係は持ったが時のたつのも忘れて愛し合ったけど愛の出口はとうとう探せなかったねとせつないトーンダウンのまま幕が下りるという定型。「僕のポルノってイヤラシクないから」と語っていた森田監督は観客を欲情させたいのではない。劇場を出る頃には射精させてあげようという。