教育映画は要ヘルメットの時代である

2月12日、新文芸座にて『闇の子供たち』(08ゴー・シネマ)を観る。監督、阪本順治。タイの売春宿で現在も続く児童買春と臓器売買を描くセミドキュメントというのか。『映画芸術』の昨年のワースト作品の中に本作を取り上げている評論家がいておやと思ったが。現実に起きていることなのだから目をそらさないでもらいたいという姿勢で撮り進めるならあのラストはどんなものかといった言い分だったがあのラストとは。
ラスト近くでは問題の売春宿に手入れがおきて子供たちは解放される。市街地では買春問題を市民に訴える集会を開いていた現地のボランティアとそれらを潰しにかかる地下組織との間に警官隊が乱入し銃撃戦となる。恐らくこの展開が劇映画的な大団円になり過ぎていて別な意味で後味の悪い作品になっていると言いたかったのかとも。後味なんて悪くて当たり前のテーマゆえに取って付けたドンパチと逮捕劇をラストに持っていったような演出側の狙いも感じなくもない。
スラムの一角の小さな売春宿が一件摘発されただけではどうにもならない根深い問題がそこにあるのは誰しもわかっているのだし。臓器売買のスクープを追いかけていた現地の日本人記者を演じるのは江口洋介。その江口演じる記者本人もスラムで少年を買った過去を隠していたらしいと思わせるフラッシュバックの直後で自殺してしまうのだが。監督自身の立ち位置への迷いを迷いのまま観せるスタンスはここにも感じられた。
かってに仁義なきシリーズのリメイクを撮った後にヤクザを完全に肯定はできんよとプロモーションらしからぬことをボヤいていたのを思い出す。だが、自身もそうした泣き所を抱えながら児童売春問題と向き合う江口洋介のようなジャーナリストは実際いるのではないかと思った。
ところで本作公開前の江口洋介は撮影現場では非道過ぎると思ったが自分が演じなければそんなことが起きていることすら世間には伝わらないのだから思いきってやったんですけどねなどと複雑そうに営業していたはずだった。が、どうやらその思いきってやったシーンは使われなかったよう。それでも熱血漢と思われた江口が「俺はアンタを裏切ってる」と同志であるはずの宮崎あおい演じるNGO職員に酔って一言もらす場面と前述のフラッシュバックだけでもヒヤリとはしたが。
本作がもっと話題というか一大ムーブメント化してしまって彼の地で少年少女を慰みものにした過去のある公人吊るし上げ大会が始まっていたら。それはそれでいい気味か。少しはいい気味かとも。お互いほんの好奇心でして。