指の腹さえビジュアルなら可である

5月9日、大塚レッドゾーンなるビジュアル系のライブハウスに。普段はどんなバンドが出演しているのかとスケジュール表を見ても私なぞには犬神凶子しかわからない。半月前にチケットを買い求めに来た時もその種の若者客らに補導員を見るような目で敬遠されたくらいで私なぞの来るところでは本来ないのだ。が、今日はこのビジュアル系のライブハウスでなぜか元パーブルシャドウズの今井久が『GSサウンズの夕べ』と題してソロ公演を行うのだ。今日ばかりは私なぞの来るところでもあるかと。プレスリーが流れる開演前の客席には五十代、六十代の好き者たちが滅多に観れない今井久を待っていた。私なぞは四十過ぎても新参者である。上野シアターと一緒じゃないかとも思うがどうもこの比較的若者扱いされそうな場を自分で選んでいるよう。爺々殺しの素質ありかとも。で、爺々まだかなと六百円の紙コーラを飲み干し待っているといきなりステージは始まった。前座の若手バンドの五分の一位の速さでチョロっと音合わせしていきなりジャンと演るのがパンクというよりパブロックっぽい。パープルシャドウズって考えてみたらパブロックだよなと考える間もなく二曲目でもう『小さなスナック』を。キャリア四十余年の職人技に早くも失禁。カレッジ系のお坊ちゃまバンド的なイメージの強いパープルシャドウズだがジャズ喫茶ではブルコメ、バニーズ、カップスらとも対バンしていたと資料に。不良グループとも堂々渡りあう生徒会のような立ち位置にあったのかも。荒木一郎の『いとしのマックス』を演りかけたとき酔客から『空に星があるように』が俺ァ好きみたいなことを言われ「あれもいいですよね、じゃあ即興で」とハナ歌調で歌いだしてバンドに適当について来てと。そういえばパープルシャドウズでも今井久はメインヴォーカルじゃなかったはずだが。レコードで聴くシャドウズとほぼ同じヴォーカルが今夜は聴けた。一人シャドウズを四十余年も営業しているうちに他のメンバーの霊魂と時代の空気が染み付いてしまったよう。そしてレコードと同じ音が確かに聴ける当時のままのギター。フェンダームスタング型の実は国産モデルだとかエコーマシンは云々と好き者たちの間で噂が噂を呼ぶのを当人はうるさがっているよう。ヘッドの部分のメーカーのロゴマークが引っかき落してある。打ち出の小槌を持ってるわけじゃないんだよという主張か。この近くに若いころスチールギターを習った師匠の家があって当時はハワイアンでデビューするつもりだったのとぼそりと語った声の悲哀にまたも失禁。