上原舞主演で舞台化すべきである

5月17日、渋谷ユーロスペースにて石井裕也監督作品『川の底からこんにちは』(09年PFFパートナーズ)を観る。主演、満島ひかり。『愛のむきだし』で注目を浴びた新進女優のセカンドステージであるが。満島ひかりの素のトークを私は見たことがないのだが本作の彼女の方が『愛のむきだし』よりもラフで伸びやかなよう。ラフで伸びやかではあるが、人格崩壊寸前の危ういOL役を好演している。しじみが暮らす、のどかな水辺の町にある主人公、佐和子の実家は木村水産なる小さなしじみ工場である。高校時代に家出同然にボーイフレンドと東京に飛び出し早5年。その間5人の彼氏と5つの仕事を転々としながら生活のみを引きずってきた。が、ある日郷里から父親が倒れたと連絡がありとまどう佐和子。現在は5人目の彼氏であるバツイチ子持ちの健一と青写真段階の家庭をシミュレートしていた佐和子。思ったよりも生活力のなかった健一が自分に相談もなく会社を辞めて自らも田舎でエコライフを考えてたのでこの際丁度いいなどとケロリとしているのを見て一時は別離を決意するが。結局子連れ男連れで郷里にUターンしてしじみ工場で働くことになる佐和子に田舎の地域社会が息苦しくないわけがない。あることないこと噂を立てるオバハン従業員らとぶつかり合いながらも倒産寸前のしじみ工場を再生させていく汗と涙と感動のコント。監督の石井裕也はまだ26歳。御実家はセレブなんですってねえなどと雑誌の取材で質問されプアではないということだけは答えていた監督だが。最近の若手お笑い芸人の中には実家の両親が地方の名士、豪農であるケースが多いらしい。そちらの人脈からひとつよろしくでと薦められたのかよろしく近づきになりたかったのかいずれにせよ制作者たちの保身から面白くもかゆくもないマスコット玩具のような若手芸人がTV界にあふれてゆく。「世界が注目する新たな才能」である石井裕也監督もその流れなんですかねとその質問者は言いたかったのかもしれない。が、本作は面白くもかゆくもない打ち上げ花火ではない。26歳でこれだけのデビュー作が撮れたら末恐ろしい才能である。あるがそれほど恐ろしく感じないのは小泉ジュニアのように周囲に熟練の相談役がいるのではと勘ぐってしまうからか。それとてまったく将来性のないドラ息子に献身するセバスチャンがいるかとも。岩松了の叔父役の熱演に保身も世渡りもあるものかと変なところで私なぞは拳を固めてしまったり。いまだにボットン便所の汲み取りをするヒロインの姿にベルリン中が発射するか。