落語界のプリンスは二人いたんである

4月19日、神保町シアターで『進めジャガーズ 敵前上陸』(68年松竹)を観る。本作はビートルズの『ヘルプ!』を演芸場で再現した歌謡映画といった感。小林信彦が別名で書き下ろした脚本もギャグてんこ盛りで楽しい作品なのだが。
昨年ジャガーズリードボーカル岡本信が自宅マンションで変死したニュースを知った時にもう本作を観ても笑えないような気がしたがやはり。岡本信が住んでいたという王子のマンションは私の住む場所ともほど近い。以前に家主のエイチが中川勝彦の入院していた病院をよく知っていると苦々しく語っていた時の感覚がようやくわかったような。何だか急に親近感がわいて同時に妙に寂しいというのか。
この日会場にジャガーズのファンとおぼしき客層は見分けられなかったが岡本信のギャグシーンだけは反響がとぼしい。やはり故人を気遣ってかとも思ったが。しかし三遊亭円楽がバラを一輪銜え王子様キャラで私のナルシスティックな傾向を許してなどと身をよじると場内は爆笑する。落語家だから笑って送ってやるのが一番などとは客席の誰も思っていないだろう。落語より面白いからつい笑ってしまったというような。
当時の三遊亭円楽は人気実力とも今一つのまま真打ちにさせられノイローゼ状態だったとか。王子様キャラは無理押しなメジャー進出への苦肉の策だったらしくそう思って観ると全然楽しそうではない。それでも落語よりは面白いと私も思った。
じゃあ円楽の落語を一度でもちゃんと聞いたことがあるのかと言われれば一度もない。追悼DVDを観ても王子様キャラの円楽の方が落語より面白いやとあっさり思うに決まってる。落語より裏芸が評判になってどうにか生き残っている落語家なんて大勢いるんじゃないのォ。と、何を半端にやさぐれてるのだ俺はと思ったら数週間前にワゴンセールで入手した『愛と平成の色男』を観ていた。超モテ男の石田純一のライバルで親友役の桂三木助を思い出していたのかと。
『三時に会いましょう』のゲストコメンテーター振りはいかにもあの時代の調子良過ぎる業界ゴロ然としていて今となっては貴重な風俗史料なのではないか。『スコラ』っちゅうか、ねぇ。そんな心のあまりこもっていない桂三木助を偲ぶ会を開いてはどうかと。三遊亭円楽を偲ぶ会にバッティングさせて。追悼DVDを制作した人物らの熱意にだって負けないんじゃないかと。熱意はない。が、これをもって両者引き分けというのはどうも何だか。