忘れてた方がよかったんじゃないのと

5月27日、タナダユキ監督作品、『俺たちに明日はないッス』をDVDで観る。08年公開、制作は小学館。海沿いのとある田舎町にうごめく無目的な高校生らの70年代風青春群像ドラマ。
オープニング、海辺の物置小屋の中で柄本時生演じる主人公が同級生の女子の体を夢中でまさぐる。が、生まれつき心臓が弱いという彼女は今日は止めてと外へ飛び出す。今じゃなきゃだめなんだと叫び追いかける主人公。まるで藤田敏八長谷川和彦がらみの70年代ロマンポルノを観ているようではある。が、そうした作品の中心にお世辞にも青春スターなどとは呼べない柄本時生を持ってくるところにタナダ監督の感じの悪い野心がありそうな。
都市部では見たこともないコンビニや薄暗いゲームセンターの他に行き場のない町を出ようとも思わない彼等。一回百円で級友に乳をもませるデブ男には忘れかけていた何かがよみがえるような。忘れてた方がよかったんじゃないのと画面に登場するすべての少女たちの冷たく光る眼が語りかけるような。デブ男がクラス一番の巨乳娘に求愛され初めての手作り弁当持参のおデートという意外な展開にはホッとしたが。彼女にダイエットを誓うデブ男に太ってる方がステキとキスまで求めてくるこの女のコはどこか普通じゃないなと。

もしやデブ男の夢オチかと思えば真相は力士のグラビアを机にためこむデブ専少女だったという展開。一方、安藤サクラ演じる少女は生理用品の使い方がわからず脚の間から血を流している姿を男子生徒に目撃されタンポンちゃん呼ばわりされるおみそキャラ。出てくる女子皆へこみっ放しのやられっ放しという設定はタナダ作品のセオリーになりつつあるが。
もうどうでもいい、やりたきゃやればと主人公の「1日最高13回オナニーしたことある」ほどの獣欲ぶりに降参する少女。海辺を歩きながらクルクル回す白いパラソルは白旗かと思えば。再び物置小屋でコトにおよぶとまた心臓発作が。死なれちゃやれないからと今度は介抱する主人公を振りほどいて海に身を投げる少女。そもそも主人公が少女をオモチャにできるのは担任教師との不倫現場を見られているからなのだが。狭い田舎町でそんな噂が立てば生きていけないが生きてる間は「可哀想なくらいバカ」な男子の獣欲の餌食という地獄のループ。
南沙織の『17歳』でもくちずさみながら入水自殺するくらいしか打つ手がないのも納得してしまったが。少女は一命を取りとめ退職と離婚を決意した担任とゴールインする。主人公はこれって失恋かと怠惰な日常に戻る。やられ女の九死に一生は正調タナダ節。