見たっていい。夢ぐらい見たって。

7月29日、『午前中の時間割り』(72年 ATG)をDVDで観る。監督、羽仁進。“『初恋・地獄篇』の鬼才、羽仁進 監督が放つ、珠玉の青春映画” である本作は一般向きには失敗作として知られる。本作のようなATG作品を公民館などで無料で観られる上映会が80年代後半まで盛んで私もよく出かけた。当時日曜の夕刻になると70年代の青春映画ばかりがテレビ放映されていた。40年前は無料でお手軽に観られたものが今は有料というのはおかしいのか当たり前なのか。本作は十七歳の少女二人が海辺の田舎町に旅に出た様子を8ミリカメラに撮り、一人の少女はそのフィルムを置き土産に入水自殺してしまったので残された映像を共通の男友達と観るという構成。当時の家庭用8ミリと劇映画の画像にそれほど違いはないので8ミリの中の時間と外の時間の枠も次第にぼやけてくる。自殺してしまう少女、草子を演じる国木田アコは8ミリの中で大胆なヌードを披露する。もう一人の少女玲子を演じるシャウ・スー・メイもセミヌードになる。男友達の下村はヌードはもちろん一体誰がカメラを回しているのかという疑問に震える。あれは自撮りだと説明する玲子だがやはりカメラマンを引き受けた男はいた。旅で知り合った沖というその男は自衛隊にいた頃に物資を持ち逃げした罪で追われているらしい。自由を求める旅の途中にだった二人は廃船に寝泊まりする沖が本物の自由人のように見えて憧れてしまったのだが。実はしがない郵便局員でもあった沖に失望する玲子は果たして草子はどうだったのだろうと思う。海に身を投げる直前まで沖と近しくしていた草子もまたその素顔に失望したのかどうか。草子役の国木田アコは少し前ならつみきみほ、割と最近なら市川美日子のような不思議少女。どっちも結構おばさんだろうと思う世代にとっての国木田アコはおばあさんの若い頃か。当時のATG作品を入場料を払って観た男子には理想の女友達だったろう。今は不思議少女市場自体があまりかんばしくない。生白く貧弱ながらも眼光鋭い不思議少女。知的かつセクシーな。そういうのもう流行らないんだよと私にはとても言えない。不思議ちゃん感度のすっかり低下してしまった自分の責任である。それはどうも個人の甲斐性みたいなものと関係あるような気がするがそんなこと70年代から当たり前なのか。不思議少女の奇妙な言動に恋焦がれていられるのはにわか自由人程度の経済力があってこそなのか。現在は如何に。ワーキングプアは不思議少女の夢を見るか。見たっていい。夢ぐらい見たって。