工藤夕貴が何となく家出して何となく

9月5日、『台風クラブ』(85年ディレクターズ・カンパニー)をDVDで観る。監督、相米慎二。田舎町の中学校舎を九月の台風が通り過ぎる。その一週間足らずの間に起きる少年少女の混乱と惨劇。キネ旬の監督全集には本作を相米慎二の描いた『青春の蹉跌』と評してありなるほどと。青春期に幸か不幸か本作にぶつかってから心の襞に何かがベッタリ貼りついてしまった輩は多いのでは。ちょっと映画にうるさい同世代との対話の中で邦画ベストワンは?いや、あえてといった展開になったとき私はついあえて『台風クラブ』ねなどと応えてしまう。言われた相手は大概ひっくり返る、吹き出す、土下座する。何やらわからないがそういう映画だ。大体主役であるはずの工藤夕貴が途中で家出する理由もはっきりわからないしそこからは彼女のロードムービーになりそうでならずあっさり帰ってくるのもわからない。わからないのだけどこれがもし工藤夕貴の家出娘が尾美としのり演じる大学生にイタズラされて狂乱したりもう少しましな男と夫婦のまねごとを始めたりする映画だったら。そんな映画だったら私も本作を当時流行の女のコ映画同様忘れたふりをしただろう。工藤夕貴が何となく家出して何となく帰ってくる間にはクラスで一番の優等生の三上君が「みんなが生きるために」自決してしまう。公開当時といっても再映だったか文芸坐ル・ピリエに終盤からもぐり込むと丁度このシーンだった。何かよほどの事情があってクライマックスでは彼が飛び降りてしまうのだなともう一回頭から観直してみた。私が間違っていた。何かよほどの事情があって純真な少年が若い命を投げ出すまでを説明してくださいなといった映画の観方が間違っていたのだ。三浦友和演じる田舎教師によく聞け若僧15年経ちゃお前は俺だと電話口で告げられ僕は絶対あなたにはならないと捨て台詞を吐いた三上君。その三上君役の三上祐一は5年後『櫻の園』の冒頭にちらりと登場する。女子高生の彼女とじゃれつく軟派な大学生役で。本作の尾美としのりの数段上手のエスコートぶりで。三上君は三上君で結論を出した。『台風クラブ』は遠くになりけりと私はいつになったら言えるのか。アラフォーアイドルブームに今イチ乗りきれない大西裕花でもって何だ、でもって。大西結花は、いやユッチは現在温泉ソムリエとして活動中とか。温泉ソムリエ?ノーカット一挙放映並みに想像力をくすぐる語感がなくも。くすぐられないか中学生じゃあるまいし。温泉に?えっ一緒に。