情けないといえば社長シリーズだ

6月12日、『社長漫遊記』(63年東宝)をDVDで見る。監督、杉江敏男。森繁社長の会社は太陽ペイントなる塗料ブランド。高度経済成長時には塗料が売れたのか。日曜大工のレクチャーをするテレビ番組なんかあったような。いやどこの家も自前のペンキで外壁や郵便受けや自転車をよく塗った。なんであんなに塗りたぐったのか。文字通り塗り変えたかったのだろう。何を?それまでのお世辞にも色鮮やかとは呼べない時代の気分を塗り変えたかったのか。バブル期のメッシュヘアにもつながるのかと。私なぞもアルフィーの高見沢を意識して頭髪にプラモデル用の金粉をふりかけていた。半分パツキンになって中指を立てた十代の私の写真はまだどこかに残っているのか。そういう類の若気のいたりはすべて回収したくなるほど向上していないところが情けないが。情けないといえば社長シリーズだ。十代の頃、日曜の昼下がりに日テレで昭和40年代の東宝娯楽映画をだらけ観ているとそれは情けなかった。こんなものは年寄りの楽しみじゃないかと思ったが。本作に登場するクラブマリリンなる高級クラブの内装にオヤと思った。少し前に観直した『東京上空いらっしゃいませ』に登場するカフェバーとそう変わらないのだ。商業映画の中で歌って踊れるオシャレな社交クラブというものを美術部のルールに従って飾ると60年代も90年代もそう変わらなかったのか。本作ではそのクラブのステージでフランキー堺のニセ外人が手ぬぐいをサックスに見立ててエアサックスを披露する。『東京上空〜』では中井貴一トロンボーン当て振りで演奏して牧瀬里穂が口パクで歌う。社長シリーズにはかかせない宴会シーンでは三木のり平が電蓄に合わせて演舞を披露する。が、レコードの回転数が狂って曲が速くなったり遅くなったりするとのり平の踊りもトチ狂ってその場にのびてしまう。今となってはさっぱり笑えないとは思うが。思うが最近でもコロッケなんかはまだ同じようなことをやっているしそこそこウケている。すべてが摩訶不思議。森繁社長の食べているそばを小林桂樹がハサミで切るギャグもドリフのスイカに通じてる気がするし。やれやれだと思っていると。ラスト近くで森繁がホテルのカウンターバーでバーボンを注文した後で(つまみは何を)「おい、ザ・ピーナッツ」と追加するシーンには吹いてしまった。さすが森繁。森繁がザ・ピーナッツと言わなけりゃギャグだか何だかわからない。人を笑わせることは自分をよくわかっていることなのだ。自分を見極めるなんて昨今ますます困難になってはきたが。