そのものズバリの日常に立たされ

6月14日、『無防備』(08年無防備制作委員会)をDVDで観る。監督、市井昌秀。小さな漁村の医療器具工場で小部品の不良を仕分けるパート主婦二人のおはなし。一人は現場のリーダー格の木下。もう一人は新人の山田。山田は妊婦という設定。「腹ボテなのに何で働くの」と同僚に問われると旦那は無職でデキ婚で金欠だからと山田は答える。作業前にエアガンでホコリを落としてねと空気圧で制服をキレイにする場面がある。ふざけ半分にエアガンで口の中を拡げてものすごい形相になるが。同じ様なことを最近の企画物AVで責め技によくやるなと気づいた。市井監督はAV出身なのか。80年代にはロマンポルノ出身の新人監督が数多くメジャーに巣立っていったが今AV畑から劇場映画をめざす新人監督はさて何を撮ればと悩み苦しむのではと。前貼り、アテレコのロマンポルノと違いそのものズバリを日常茶飯事撮り続けた後におはなしを、物語を探すのは容易ではないだろう。本作で妊婦の山田を気遣う木下は自動車事故で流産して以来夫との仲も冷え込み睡眠薬中毒になる。食事も一緒にとりたがらない夫が入浴中、夫婦らしいことしよう、私子供欲しいと木下が詰め寄ると夫は俺はもういらない、思い出したくもないと拒む。何となくAV制作現場の悲哀がのぞけるような。それでももう一度子供が欲しいと願う木下の姿を必死に物語を追い求める数多のAV出身監督に重ねてみたくなる。そのものズバリの日常に立たされながらさてどこを目指したものか。極端から極端へとメルヘン童話を目指すか。死体ビデオや虐殺ドキュメントなどのさらなる残酷物語を目指すか。私はどちらもあまり観たくないような。あまり観たくないといえば女性誌の有名女優の妊婦ヌードもあまり観たくない。特撮戦隊物のAVも同様にあまり観たくない。観せる方も観せる方なら観る方も観る方というか。本作では果たして何を観せられるかといえば。クライマックスで妊婦の山田の出産シーンがある。本物の妊婦に演技をさせていたのかと思うとこれはこれで残酷物語かとも。だがガチ出産も妊婦ヌードも戦隊AVも押し並べて俗の極みでそんなものに慰められたら終りだとすれば私は『無防備』を選びたい。ガチ出産がいい。まだ何者でもないクチャクチャの猿のような赤ん坊がゴロリと産まれ落ちる本作がいい。何の関連情報も拾わず本編だけを観た私はそう思ったが。もしかしたら本作の背景にも原一男のドキュメント並の逸話があるのかもしれない。特典映像はなかった。現場の苦労はご想像に?ラジャー。