かしぶち哲郎作詞作曲によるこの曲を

7月25日、岡田有希子『All Songs Request』を聴く。本作はアイドル歌手、岡田有希子が残していった全ての音源の中からファン投票により選曲された17曲を収録したもの。ユッコといえば竹内まりやによるデビューからの三部作、『ファースト・デイト』、『リトル・プリンセス』、『Dreaming Girl‐恋、はじめまして』はもちろん優れた楽曲だと私も思う。思うが例えばビートルズの楽曲の中からフェイバリットをたずねられた時の高橋ユキヒロが『ハロー・グッパイ』一曲で充分と常に答えるように私もユッコは『Love Fair』一曲で充分お腹いっぱいなのだ。かしぶち哲郎作詞作曲によるこの曲をかつては夜ごとヘッドフォンで何度も何度も繰り返し聴き涙に暮れたもの。などと記すと私が86年4月8日以降にユッコの自死を弔って一人お別れ会を行なっていたと思われそうだがそうではない。私は『Love Fair』を発売オンタイムで入手し純粋に楽曲の美しさに感涙していたのだ。アナログ盤を繰り返し涙を流しつつむさぼり聴いたのはあれが最後か。竹内まりやもいいけどかしぶち哲郎だってもっと評価されていいのにと『Love Fair』を聴くたび私は思っていた。が、本作で当時発売を見送られた幻のかしぶち作品『花のイマージュ』を初めて聴いてみたのだが。はっきり言ってトゥマッチなよろめき歌謡というか所謂やっちゃった感の残る凡作だった。一応は「スタ誕」出身のユッコに合わせて初期の岩崎宏美伊藤咲子のような三分間の歌劇をと制作側は奮闘したのかもしれない。が、結果はよろめき歌謡であった。そして本来ならユッコはこのダサダサな新曲と共にその夏も各地のイベントに駆け回っていたはずなのだ。郊外の遊園地で開かれるそうしたイベント会場周辺には案外金を持ってるアイドルファンを狙う地元ヤンキーによる恐喝団やその現場を押さえようとする補導員らが迷走していてさながら戦場のようでもあった。ユッコが見たかっただけなのになんでこんなブルーな気持ちにさせられるんだよとボヤきつつ帰りの電車に揺られていればまだ平和だったのだ。まだその方がずっとよかった。名曲中の名曲『Love Fair』には編曲に松任谷正隆が参加している。よろめき歌謡に走らせない知性と理性がしっかり脇をかためていたよう。優等生ムードあふるるユッコが演じる魅惑のエロベビイは全権かしぶち演出ではダサダサであり松任谷正隆のインテリジェンスがあればこそ今日まで奇しく輝き続けているよう。