70年代初めに百花繚乱の盛り上がりを

5月20日、隔週刊『円谷プロ特撮ドラマDVDコレクションvol.22「ミラーマン」第16話 人形怪獣キンダーを追え!』(ディアゴスティーニ) を観る。監督、東絛昭平。70年代初めに百花繚乱の盛り上がりを見せた特撮ヒーロードラマの中でも特別な存在だった気がするミラーマンを再検証しようかと。70年代半ばには筒井康隆が『ミラーマンの時間』なるジュニアSF小説を書いているし90年代初めには町田康がアルバム『腹ふり』の中にずばり『ミラーマン』なる自作詩による曲を収録している。昨今ではスズキアルトという自家用車の現行モデルのデザインがミラーマンの造形に酷似しているとこれは私が勝手に思った。それほどまで後年に影響を与えるミラーマンのどこが特別なのか。今回観直して気づいた点はやたらと暗い全体のムード。実際特撮シーンや格闘シーンに夜設定が多く画面は不鮮明だが。それ以上に出演者の新劇、時代劇調の重厚すぎる演技が暗さに拍車をかけている。頼みの綱の主人公、鏡京太郎を演じる石田信之までもが暗い。そもそも青春ドラマの明るく快活な主人公の敵役を得意とするサブキャラ体質の石田信之を起用する点からして作品自体がダークホース的存在なのだ。が、ダークだからといっておろそかにしてはいけない悪の人物設定がどうも乱雑で理解に苦しむ。『ウルトラセブン』のように侵略する側がどこから来て何を目的とするのか説明しないし犯行声明も取引めいた交渉も持ちかけない。何やら気分で要人を襲って失敗するとやけっぱちで総攻撃を仕掛けるような。窓口に交渉人を差し向けることもなければ誰が侵略側のリーダーなのかもはっきりしない。だが本作は『ウルトラマン』の脚本家、金城哲夫が3年間暖めて実現したとっておきの企画。恐らく侵略側の不鮮明で無目的とも思えるダークな動向も狙いなのだ。沖縄出身の金城哲夫は自身の脚本に日米関係、基地問題へのメッセージを再三込めてきた。『ミラーマン』においても金城は就学児童向きの紙芝居的な発信元から聞き捨てならない過激な政治的メッセージを放つつもりだったはず。が、フジテレビ系の特撮ヒーローは変身願いますといちいち上層部に懇願しないと変身できない『スペクトルマン』をはじめ所詮は宮仕えなのだ。ヒーローが宮仕えじゃなくなったら大変なことになるじゃないかとは私も思う。思うが特撮ブーム自体がもう直に飽和することぐらいわかっていたはずの金城哲夫だけの未許可版『ミラーマン』があったように思える。