ミスターニッポンと逢引き中である

 新文芸座にて「鬼才 増村保造」、「黒の試走車」(62年大映)を観る。田宮二郎演ずる巨大自動車産業の敏腕スパイが目的のためには手段を選ばぬ情報戦争の犬となり、やがて婚約者を敵方の寝室にもぐり込ませ抱かせ、特ダネを盗み出す。が、その直後身内に存在した敵方の二重スパイを自殺に追い込む幹部に失望し、出世目前にして辞職、婚約者と田舎町で前職と比較にならぬ凡々な弱小メーカーに再就職するまでのお話。この作品からいよいよスター街道を爆進することになる田宮二郎がつい最近メンズ誌の表紙になっていておののいた。で、今日その出世作を上映する新文芸座には、これまで何度も名画座開催された増村保造特集では見かけない新たなファン層が見受けられたのだ。二十代なかばの若い女性客である。
 映画オタク、アートスクール風のやぼったさ、チャラチャラ感は全くない。丸の内のオシャレなOL風であり、仕事の合い間にどうしてもスクリーンで一目見ておきたくて駆けつけてきたかのような。一目田宮二郎に対面したくて普段ならまず足を運ばない池袋のそれも風俗街の真中に建つパチンコビル内の映画館に現われた彼女達。田宮二郎の新たなるファンであろう。60年代初頭にピンピンの男盛りである田宮二郎に対して今現在20代なかばである彼女らは親子ほど離れている。いやもっともっと離れている。離れているが何も彼女達だって存命であれば定年間近の会社の上司と同年代である田宮二郎を比較してるわけでもあるまい。田宮二郎の持つ格好良さが、もう体温持って自分達の手の届く所まではやって来ないことをはっきりと分かった上で追いかけているのだ。そんな虚しい行為に没頭できるのはそれなりの大学出のそれなりの会社で働く自立した若い女だろう。彼女らを日頃ムシャクシャさせている人間関係や仕事上のストレスを、一息で吹き飛ばすような品格をこの時期の田宮二郎は持っているのだろう。何となく勝新の弟分としての田宮二郎は彼女達にウケないような気がする。関西弁でべらべらまくし立てるチンピラ丸出しの田宮は恐らくNGでは。でもクイズ番組の司会進行役で素人出演者に「どうです?緊張してる?」などと気さくに話しかける田宮二郎の映像などは物スゴく観たがるような気がする。田宮二郎の新たなるファン層にアピールしたドキュメント映画を製作するのであればむしろこっち。「クイズタイムショック」の舞台裏、名場面を当時の関係者へのインタビューでつないだ異様な緊迫感のあるドキュメントを。オカルティックなあのコーラスに乗せて今一度。