見ごろというより笑いごろである

 フィルムセンターにて新藤兼人監督作品「縮図」(53年近代映画協会)を観る。芦田伸介がとぼけた三枚目役で出ていた。昭和20年代後半まではコメディー路線で売っていたのだろうか。主人公の若い芸者、銀子役の乙羽信子沼田曜一演ずる青年医師との結婚を夢見ている。沼田の方も芸者をしている乙羽の借金を肩代わりしてでも結婚したいと思っている。勿論そうしたお互いの気持ちを早急に行動に移せば必ず物騒な事件になる。そこまで思いつめぬように二人の間に入ってひたすらピエロのごとく茶々を入れる沼田の親友役が芦田伸介である。ヨイヤサ、ハットサ、ホイとか何とか合いの手を入れ手足をバタバタ動かす野球拳の原型のようなお座敷遊びは、以前中国映画でも似たものを観た気がする。アッチ向いてホイ相手の動作につられた方が負けらしい。負けた方は一枚ずつ服を脱いでいく。乙羽は肌着一枚まで追いつめられてもう脱げなくなると替わりに酒をコップ一杯一息に飲んでみせる。芦田はパンツ一丁になっても夢中でホイノヤイノと挑みかかる。コメディー役者としてはそれほどおかしくはない。が、その後の「七人の刑事」などのクールで苦虫をかみつぶした性格俳優の芦田を思い出すとおかしい、というより笑っちゃうのだ。同じ男が演じているとは思えない。それでもたいして面白くないピエロ役を必死で演じる芦田がなんとも言えぬ。同じ男でありながら大きなギャップを感じさせる理由はサングラスの有無だろう。「縮図」の芦田は素顔である。「七人の刑事」以降の芦田はサングラスをしている。ゴツイ作りのフレームでレンズはこげ茶。サングラスというより黒眼鏡の方がしっくりくるか。黒眼鏡をしてからの芦田は絶対にパンツ一丁で汗まみれになって芸者とじゃれたりはしない。メガネひとつで随分イメージは変わるものだ。
 が、確かにイメージは変わるけれどその変わりっぷりが強引すぎておかしかったのが愛川欽也の「メグレ警視シリーズ」だろう。キンキンが黒眼鏡をして落ち着き払ったトーンの口調で名推理を展開するTVドラマシリーズである。今観るとかなり笑っちゃいそうな気がする。黒眼鏡をしてボソボソ語りさえすれば自分はもうキンキンじゃない、メグレ警視だと思い込んでそうな愛川欽也がおかしくて仕方ないような。脚本もクールでダンディと思ってるキンキンをのせまくるように異性にモテモテな人物設定。で、ヌケヌケとモテてみせるキンキン。あれはもしかしたら物凄く前衛的なお笑い番組だったのではないかと今にして思えばやはりテレ朝。