お笑いのキンキンが2時間ドラマで

10月26日、神保町シアターにて『新宿馬鹿物語』(77年松竹)を観る。監督、渡辺祐介愛川欽也演じる新宿のバーの雇われマスターは女嫌いで通ってる独り身の四十男。店のホステスたちには日々おちょくられ女は嫌だ女は怖いとひとりごちり続けるがマスターにとって唯一理想の女性像は生き別れた実の姉。姉のズロースを持ち出してはとっつかまってお灸を据えられていた少年時代から何か困ったことがあると壁に向かって姉ちゃん俺どうしようと問いかけるシスコンぶりが妙にダンディー。70年代の愛川欽也ダンディーである。80年代に入ってからTVドラマでメグレ警視を演じていたキンキンに当時高校生の私はキョトンとした。お笑いのキンキンが2時間ドラマでサングラスをかけてニヒルな警視役をにこりともせず演じている違和感に。子供目線でお子様向きのお茶目なキャラを演じるキンキンに寄りかかっていた私はまだ子供の時間の住人であった。本作で昼の11時にむくむくと起き出し夕方までには止んでくれよと雨空を心配するキンキンは夜の新宿の住人。「10年シコシコ働いてやっと買った」中古マンションは引っ越した翌日から雨もりが。だがそれがきっかけで玄関先で雨やどりしていた近所のスナックのマダムと内縁関係ができる。割とあっさり人並みのことができてしまう展開に違和感はない。ベッドの上で白いシーツに白い掛けシーツにくるまって交わる場面は正しく70年代。大人になったら白いシーツに白い掛けシーツを用意しなければ一人前の男のベッドシーンは演じられないのだなと少年時代の私は思った。そして子供のようにキャッキャと笑い合い乳繰り合うのだなと。マダム役の大地喜和子にはそんなベッドシーンがよく似合う翔んでる女。マダムには実は田中邦衛演じる宝石ドロの情夫がいて出所後に内縁関係中のマンションに堂々と迎えに来るのだが。キンキンは初めは面食らってもそういうことならのし付けて返してやる!と変な男気を見せる。結婚はしてないけど(できないけど)奥さんみたいな女性と一緒に住んでるみたいよと噂される中年男は70年代後半までは大勢いた。今だっているだろうと言われればそりゃいるのだがこの時代までは内縁関係というものが世間に認知されてたような。今の事実婚別居婚とくらべると内縁関係の方が不良性感度は高い。正式に結婚していない男女がぐずぐず共同生活を続けているのは何か悪いイメージ、犯罪の匂いにつながるイメージがあった時代。そんな時代の空気が詰まった本作に幸せそうに笑う客層は皆、高齢者であったが。