行く春も来る春も延滞中である

 なんだかんだと師走の今日まで生き延びたなどとは多額の借金や病魔と闘う人々の手前言いにくいのですが、ま、何とかうごめいております。で、この時期になると年間を通して色々な物を観たり読んだりして手記にまとめる職業の人々はアレやるでしょう。今年のベスト何々、ワースト何々。私もひとつ05年のベスト、ワーストをひねり出そうかと思うのですが。
 今、私の手元には今年三月分の国民健康保険の支払書がまだある。早い所払いたいのは山々でもギリギリ待っていただけないかと。公共料金が軒並み滞り始めたらどうするか。全部をギリギリ待たせてチビリチビリ納めるべきである。一件だけを一気にクリアにしてしまうとなんだ金あんじゃんと言わんばかりの請求が各方面から押し寄せて息の根を止められることは長いジリ貧生活の中で体で学んできた。借金王、快楽亭ブラックは40ヶ月分も国保を未払いにして流石に怒られたとか。見習ってはいけない。今はブラックにグッバイ。
 気持ちだけでもいっぱしの評論家のごとく振る舞うことにして今年のベスト、ワースト上げつらねましょうか。まずベスト。映画では成瀬巳喜男の生誕百年特集では。あちらこちらの名画座やホールで特別上映が開かれて若年層にも人気を呼んだことは何より重要かと。音楽に例えるとスピッツをきっかけにはっぴいえんどにも感銘を受けた今の若者達が高石ともやまでも手を伸ばし始めた(まだ伸ばし始めてはいないが)ような奇跡ではないのか。今年の成瀬巳喜男特集に足を運んだ全ての若者が映像関係の専門学校生で校内のカリキュラムのひとつとしてただ成瀬作品を観せられただけだとしても。だとしてもそうした若者達の胸中に成瀬作品が教科書的なのんべんだらりとした古の人情劇としてしか残らなかったかといえばそうではないだろう。
 成瀬巳喜男に負けないつもりでディレクターズチェアにどっかと腰を下ろす新世紀の映画監督の出現がほぼ約束されてしまった重要な年だったのだ今年は。俳優を志望する男子はトヨエツやキムタクに追いつき追いこせなんて腹ではこの先危ういのでは。むしろ藤原釜足っぽかったり加東大介風のアプローチ持ってるか否かが俳優人生の明暗を分けてしまうのでは。向う五年以内にはきっと生まれてしまうもはや認知のしようがない成瀬チルドレン達の作品群が今から楽しみである。いや楽しみどころかはっきり言って怖い。「変態家族・兄貴の嫁さん」を始めて観た時の笑っていいのか怒るべきなのかとまどうばかりの暴力的パロディーにふたたび耐えねばならぬのかとこの年で。