顔で笑って心で射精すべきである

4月17日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて『性と愛のフーガ 田中登の世界 木曜ゴールデンドラマ 愛の報い』を観る。前回の上映に出向いたところ満席で観られなかったのでそんな隠れた秀作なのか知らんと思い期待したのだが。
上映前の客席で残り少ない座席のどこに座ったものかオロオロしている五十代半ばのおばはんコンビが。こういうとき、こういう場違いなオロオロした珍客は必ずといっていいほど私を見つけるとそこだと言わんばかりに隣の席に陣取るのだが今回も例外にあらずにじり寄ってきた。
おばはんコンビは私の隣に落ち着くとパンフを取り出して何やらおしゃべりを始めた。案外ロマンポルノ通のような。12日にトークショーがあったのね、ここに来たんだ、うわァなどとささやき合うおばはんコンビ。一体誰のことを言ってるのだろうと私もフライヤーを見やると。トークイベント、4/12(木)『愛の報い』終了後、風間杜夫さんとある。
この五十がらみのおばはんコンビが風間杜夫のファンだと言うのか。そんな訳ないか。いや、そんな訳あるか。70年代初頭にロマンポルノのスクリーンに登場しその「繊細な演技は当時一部の女性ファンを熱狂させた」風間杜夫を追いかけていた彼女たちは今では五十代半ばくらいになっているはずである。で、まだこんな所まで追いかけていると。それもこれも若き日の風間杜夫のカリスマ性ゆえか、カリスマ性と人の良さと。
一番人気のあった80年代初頭にファンクラブの会長と噂になったほどのお人好し振りには当時高校生の私は少し引いた。杉良太郎がコンサート会場で押し寄せた中年女性ファンにキスを求められ応じたなどと週刊誌ネタにされていた頃の話だ。トークイベントの方はどうだったのだろう。風間杜夫の舞台をチェックすれば彼女たちの更なる実態もレポートできそうだが。
で、映画の方は83年の二時間ドラマであった。撮影は森勝、共演に桃井かおり蟹江敬三名古屋章宮下順子とロマンポルノとお茶の間劇のブレンド作品といった感の小品であった。風間杜夫扮する落ち目の青春スターを支える情婦が桃井かおりでその父親役が名古屋章。物語はなぜか名古屋章の語りをはさんで展開していく。
 上映前のロビーで流れていたメイキングビデオの中で語る田中登の風貌は牧歌的でどこか名古屋章似であったからこの語りは監督自身の投影か。落ち目の青春スターの踏み台にされて殺されかけた桃井を優しく包む父親のスタンスこそが田中登流の演出術なのかと。本当のサディストに芸術価値のある暴行シ―ンなぞ撮れるわけもないと実感したり。