トンガリキッズに愛の炊き出しである

3月10日、渋谷イメージフォーラムにて「WE ARE THE PINK SCHOOL! 日本性愛映画史1965−2008」、『OLの愛汁 ラブジュース』を観る。監督、田尻裕司。99年、国映作品。オープニングで椎名林檎の『ここで、キスして』が流れ出すと中央線のオレンジボディがゆるゆるとコマ送りで大写しになり亡霊のようなラッシュアワーの乗客の姿とともにクレジットが浮かび上がる。
本作はピンクでは唯一この年の映画賞に食い込んだ意欲作。スタイリッシュなピンク作品につきまとう気恥ずかしさもあまりない。低予算丸出しながらも誰もがやりそうでやらなかった手弁当感覚の映像美が80年代のインディーズ、いや自主制作レコードに見られたイビツな磁力に満ちているのだ。恐らくそうした世界観を20年後の今もう一度展開するならばといったコンセプト立ての中に椎名林檎も加わったのかとも。
70年代のロマンポルノの劇中で当時大ヒットした歌謡曲を使用する場合照れ臭気にテープをつまんだりパチンコ屋のBGMとして流してみたりするものだが。ちゃんとそうした使い方もしていたりしてあくまで正攻法というか。どこをブレないように正攻法を守っているのかといえば80年代に黒沢清や細山智明の作品群に触れた若者たちが震えたように今時のピンクにも次の波を起こすその為だったと思う。その甲斐あってか本作は現在DVD化され大型書店のサブカルコーナーに並んでいたりもするが。
久保田あづみ演じるOLが偶然出逢った年下の専門学校生と行きあたりばったりの半同棲を始めたと思えばあっけなく別れてしまう短い日々をチープながらも実にカッコ良く描いた本作がもし地上波のゴールデンタイムにテレビ放映されていたら。70年代の『傷だらけの天使』にショックを受けた少年少女たちと同様の若年層から強力な支持を受けていただろうか。確か同じ99年頃に『ここで、キスして』をテーマ曲にした当時としても時代遅れなトレンディドラマが日テレの深夜に放映されていたような。あんなものより『OLの愛汁 ラブジュース』の方が格段素晴らしいし評価もされたっちゃされたがしかし。
久保田あづみの使うワープロも携帯も今より一回り半大きくゴツイ99年には林由美香もまだツルツルのピンピンで登場する。男運のない主人公の相談役として伸びやかな演技を見せる林由美香を観ていると本作にはもういかなる残念賞も要らないような気もしてくる。椎名林檎戸川昌子みたいになっちゃった近未来には今一度こっそり味わいたい本作におやすみなさいと。