ニューヨークから視たアジアのキラ星

7月13日、池袋HUMAXシネマズにて『私の男』を観る。監督、熊切和嘉。熊切監督は去年『夏の終り』と『莫逆家族 バクギャクファミーリア』が公開されていてかなりのハイペースぶり。本作主演の二階堂ふみは第13回ニューヨーク、アジア映画祭でライジング・スター・アワードを受賞している。ニューヨークから視たアジアのキラ星に選ばれた二階堂ふみも去年は『地獄でなぜ悪い』をはじめ四本以上もスクリーンに登場とこちらもハイペース。池袋HUMAXの私が陣取る座席の前列に高校生男子二人組がにやにやと期待感充分で上映開始を待っていた。最近ファンになった二階堂ふみの大胆な濡れ場のある衝撃作といった予備知識で観に来たに違いない彼らにとって本作の衝撃度は実際いかがなものであったか。二階堂ふみ演じる花は幼少期に災害孤児となり遠縁の淳悟が親代わりに引き取ると申し出てそのようにされる。が、親代わりの淳悟は花の実父であり花の育ての両親は問題だらけの淳悟の私生児である花を守るため自分たちの子供として育てていたのだ。その両親から子供をとり戻した淳悟は十歳の花が十五歳になる頃には実の娘と夫婦同然の仲に。悪魔のような淳悟には結婚直前の恋人もいたが。その恋人が連れ子になる花をとり込もうとして拒絶され後日その理由を目撃してしまう。本作に登場する人物のほとんどは広くは親戚関係なのだがその親戚の寄り合いで小部屋に二人きりでくつろぐ淳悟と花の痴態を目撃してしまうのだ。親の膝に甘えながらその指を嬉しそうにぴちゃぴちゃ舐めずる花の横顔は人間離れしているが生の喜びにあふれているようで。アジアのキラ星がただ一塊の哺乳類と化したこの場面だけでも本作の衝撃度は計り知れないのでは。二階堂ふみの大胆な濡れ場を観ながらポップコーンを頬張れたら最高のはずだった高校生男子は奈落の底へ突き落されたことだろう。そして重要なのは花という少女がこうなったのは悪魔のような実父のせいばかりではなくこれまでのいきさつも自身で理解しながらそんな生活を続けていることに観客がが気づかされたときの拠り所のなさである。何だ悪魔の娘もまた悪魔なのかと私もまた高校生男子とともに奈落の底へ突き落されたのだ。それならはどうすればいいのだろうかと。もちろんそんな私のごとき小動物に手出しは無用でだまって観ていれば魔性の女は結局自分に一番有利なかたちで収まるべきところに収まるのだが。やはりそうかと納得するくだりまでは男子たるもの見届けたい。その気持ちが私にもまだわずかに残っている父性なのかと。