酒豪で旅好きのフォーク歌手といえば

4月29日、友川カズキ 著『一人盆踊り』(ちくま文庫)を読む。本書はフォーク歌手の友川カズキが70年代半ばより書き残してきた身辺雑記に語り下ろしインタビューも併せて再構成した初の文庫本。50年生まれの著者は近年にも何作目かのドキュメント映画が公開されたように自身のキャラクターというか生活ぶりそのものが作品化しつつある。酒豪で旅好きのフォーク歌手といえば高田渡と重なる面もあるが友川カズキの場合そこに競輪と酔ったはずみの暴力も加わる。本書の冒頭に高校卒業後に就職先を半年で辞めて飯場に仕事を求め「雨の日等は朝から酒を呑み、花札をやり寂しく又明日のためにフトンにもぐった」毎日を送るうちに岡林信康の詩に出会ったくだりがある。『山谷ブルース』や『チューリップのアップリケ』を聴いて「その中に唄われた言葉は哀しいメロディーにのって一字一句俺の胸に深く入っていった」と語る著者は岡林信康の影響で自身も歌い始めたと認めつつ微妙に距離をとっているようでもある。逆にひょんな出会いから意気投合してしまったのがたこ八郎中上健次だとか。並の人間にはどうやって懐に入ろうものか見当もつかない怪人物とすんなり仲良くなれる著者も何やら常人離れした独自の物差しで他者との距離を計っているよう。画家としても活動する著者が本書のカバーデザインも手掛けた間村俊一の仕事場を訪ねた際のこと「帰り際クツを履きながら、やはりスケベの私である。間村さんに何歳になるんですか、と素頓狂でバカな質問をしてしまった。めったなことで他人のトシなんぞ訊くもんじゃない」と後悔する場面にもそれは感ず。本書の後半ではそんな著者が50代に入ってから海外公演に呼ばれ始めてからの悪戦苦闘ぶりがつづく。空港の入国審査で拒否され歌手であることを証明しようとその場でギターを出して歌おうとするもマネージャーに「かえって面倒なことになるので、やめてください!」と止められた話は可笑しい。「融通が利かない、ということは実に新鮮でしたね」と語る著者には唐十郎がかつて中原中也を論じた「悲しみの詩と生活を演じた恐ろしき一元論の病者、即ち彼は、自由のマゾヒストだ」と同じ横顔が重なる。40代半ばにアルコール依存から幻覚に襲われ「死神」と対面してもまだ呑み続ける著者は酒に苛め抜かれる自分自身の観客もあるよう。「この期に及んで、あと十年くらいは生きたいなと思ってるんで、ひとつ宜しくお願いします、ということで」などとうそぶく著者は今が旬の最重要文化財である。