あの健気なコール&レスポンスは

10月25日、『ミッキー吉野グループ 1974 ワンステップ・フェスティバル』(アイドルジャパンレコード)を聴く。本作は74年8月福島県郡山での日本初の野外ロックイベント、3日目のトリに出演したミッキー吉野グループの演奏を収録したもの。野外フェスの創成だけにトリの時間にはペース配分を誤った聴衆の大半はぐったり見守っているような印象。この年の6月に海外留学から帰国したミッキー吉野が用意した演奏曲はいずれもデキシージャズをソフトロック調に編曲した当時流行のスタイル。この種の音楽を聴くと昭和っ子は何やら楽し気な空気に包まれた感覚になってしまう。私も幼少期には『五匹の仔豚のチャールストン』や『仔象のマーチ』に広い世界にはこんな楽しい音楽がと歓喜していたが。その流れで『傷だらけの天使』のサントラにも心踊らされた訳だがそれらはどこまで流れついたかといえば『笑っていいとも!』のテーマ曲あたりまで続いたよう。凱旋帰国後のミッキー吉野が日本の聴衆の前にこうしたアプローチで舞い戻った心情にはまあそう怖がらずにというてらいもあったのか。現在では『五匹の仔豚のチャールストン』にも『仔象のマーチ』にもぴくりともしない私でも『オモチャのチャチャチャ』には年をとるほど胸に染みてくるものが。同じデキシーランドジャズでもこちらは救世軍寄りというか廃墟の中でしんみり響き渡ってそうな悲愁があるのだ。それらはいずれも57年に三越本店屋上に開園された日本初上陸の『ディズニーランド』のようなものでありいわば子供だましなのだが。『オモチャのチャチャチャ』には今もだまされていたいのか。どこか低年齢層(キッズ)に媚びているようでもある本作のミッキー吉野グループを当時十歳未満の私が見たらキャロルの方が大人に思えたろう。児童番組の司会をしている中年男優や体操のお兄さんよりショーケン松田優作の方が大人に思えたようだ。その後の中学時代に同級生の中でもゴダイゴのファンというのは皆平均以上の優等生であり、乗りの悪い授業を教師と一緒に盛り上げようと演出していたように思う。あの健気なコール&レスポンスは本作の聴衆とどこか重なるものが。日本テレビのドラマ『西遊記』に感動してさっそく『ガンダーラ』のEPを買い求めた小学生の私の胸には死生観のようなものがようやく冷静に芽生え始めていた。そのナイーブな心の芽を狙い撃ちされたかと今にして思うが。ミッキー吉野に言わせれば日本人はあのイントロに登場する弦ギターの音色になぜか弱いのだとか。