時代はくまなく止めて欲しいんである

 なりたい自分になる為の「修行」であれば我慢もできるのだがなれそうもない身分になった「振り」をするのは嫌だ。ちゅな訳で今の私は喫茶店で原稿は書きませんね。なんだか振りに近いと思いまして。別に専業作家じゃなくても住家で机に向かうより気分が出るなら喫茶店で書きゃいいのでしょうけど。まあシャイなんで。後々原稿書きになったら平然と喫茶店で書くだろう。交通費として五千円という条件でコントの台本を書く機会が十年以上も前に一度だけあった。その台本は神保町の喫茶店で得意げに書いていた記憶がある。そうだ振りじゃないんだ振りじゃと思えれば結構すぐその気になるタイプ。ならば振りじゃなければ自分は一体どのような喫茶店で急ぎの原稿をやっつけてみたいのか。

 本来コーヒー通でもないからさほど美味いコーヒーを飲ませてもらいたいとも思わない。特にこだわりのある内装でなくても良いし、店内BGMが自分の趣味じゃなくてもそれはそれと思って納得してしまう方。ウェイトレスはいない方がいいか。それは知名度によりけりか。あの人どっかで見たことない、か何かヒソヒソ話をされる側にとってその状況はかなりムズがゆいものではないのか。どっかで見たということは二時間ドラマのバイプレーヤーくらいの知名度しかないのか。東京サンシャインボーイズ出身の役者を知ってる順に挙げていったときに名前は出てこないけどホラあの人あの人とねえ、と納得し合うあの人ゾーンでしかないのか。そんなんだったら気付かれない方がマシなのか。いや、やはりそうだ○○さんだと顔と名前が一致してもらえるまで意地でもその店には通うべきだろう。その時点で言いたい「領収書もらえるかな」か何か。「宛名はどうされますか」「宛名はねえ、そうねえ」かなにかまだ田村正和ばりにスカしてる私に「宛名はカワセミ書房ですか」などととんだ毒饅頭食らわせてくるマニアっ娘も現われるかもしれない。そんなウェイトレスがいる店ならばドアを開けるとカウベルがカラコロ鳴っても許す。今時無いな。今時無いのがポリシーなのだなと納得できるからだ。壁にはヨットのいかりが飾ってあっても良いしメニュー書きがドーナツ盤でも結構。米びつくらいもの巨大なミントグリーンのガラス瓶の中には外国硬貨がたまっていてもわざとらしいと笑うものですか。ただそこまで本気見せといてカウンターの横には液晶テレビなんかあったりすると全て台無しなんである。時代劇の背景に写っちゃったヘリコプターみたいなもんで。カット、カットとマスターに頭突きして再び修行。