それでも君にララバイである

7月21日、銀座DEPTHにてサイレントシネマライヴVol.20「第七天国」を観る。銀座DEPTHは今月いっぱいでクローズしてしまうとか。一年以上も定期ライブを続けてきた活動弁士佐々木亜希子はホームグランドの一つを失うわけで、心なしかしょんぼりと開演前のあいさつで事情を説明する。客席は満席であったが閑古鳥の方がこの場合ムードあるような気も。呑気なこと言ってられないですよ。このまま一つ、また一つと活動の場を失いつづけるハメになったらどうする私は。

 今の私に彼女の活弁は唯一の子守唄である。別に眠りコケながら耳をかたむけている訳ではない。「観客を自然と映画に引き込んでいく」彼女の声質とテンポが幼年期の記憶の中の子守唄やおとぎ話のそれに近い感があるのだ。ララバイである。おまけにマドンナ。おまけにアダルト業界出身、かどうかは知らぬが色気で売る方向もチラリと。「佐々木亜希子の無声映画でイキましょう」とあるフライヤーをしげしげと読む。経営に行き詰まった劇団がよくやるワークショップみたいなものを始めるらしい。先着20名で2時間二千円。これはあまりにもShall We ダンス。一緒にストレッチして発声して。背筋もう少し伸ばしてください、もっとこうか何かピッタリ密着されたり。他の弁士にはマネできない企画かもしれない。性的魅力無いから皆。有るものは売ったれ的な出血企画が吉と出るか凶と出るかでしょうな。私は今のところ参加してみたい気持ちを抑えている。それは間違いなのか。大西結花のファンだからヘアヌード写真集は買わないなんてのと一緒なのか。買わないからゆっち大変なことになっちゃったのか。今から買うか。いや今から参加するか活弁教室。弟子入り。違う弟子入り期待してるムサイ中年20名の中に私も。比較的若く見られるだろう。比較的英国紳士に見られるか。

 やっぱりハリウッド育ちの美丈夫が好みなのだな女史はと「第七天国」を観て思った。女性の弁士の傾向としてカッコイイ男優の台詞の時にグッとテンションが上がる。男性の弁士は美しいヒロインに同じ気持ちの込め方はできないようだが。終演後客を見送る女史に前回は「はじめてですよね」と問われ「はい、また来ます」などと答えた私。もう冗談にもそんなこと言えんしなあともじもじしつつ女史の前を横切る。女史は私を見るやプッククとうつむき笑いをこらえているではないか。映画の中ではドン底でも上を向いて生きる美丈夫に同化していたのに。いや美丈夫は好きなの。ドン底は大嫌いなの。何さこんなケチな店と。天国でしたがね。