最良の悪夢にうなされたんである

 10月6日、北とぴあ・さくらホールにて沢田研二コンサートツアーを観る。客層は30代半ばから50代後半位までの女性客が大半であった。開演前の女子トイレは長蛇の列。ガラ空きの男子トイレで小用を足す私の背後に中年女性が現われ「嫌だ男の人居たわ」などと逃げ帰った。売店にツアーパンフは無く、CDやDVD、あまり欲しいとは思えぬデザインのTシャツなどが並んでいた。そして満員の観客の前にバンドが登場。元ルースターズの下山淳が、元ジャコウネコのGRACEが変わらぬ姿を見せてくれた。
 ふいにステージ袖から右手を上げて、巨体をどすどす揺すぶって現われた中原昌也似のその男がジュリーであることはすぐわかった。だってもうジュリーが出てくるしかない段取りを見せられてきた訳だから、舞台上のその男は間違いなくジュリーなのだ。なのだが、「灰とダイヤモンド」位までしかジュリーにくっついて来なかった、私のようなリトルファンにはショッキングな枯れ様だった。が、客席は沸きに沸く。絶対に懐メロ歌手にはならないという近年のジュリーのコンセプト通りのセット。ヒットメドレー無し。聴いたことないけど、こんな曲をここ最近は出してたのだろうなと、私などは感じる曲に客席は沸きに沸く。曲間のMCやギャグなど一切無し。「サンキューベロマッチョ!」位がやっとといった感で余裕が無い。予定のセットを歌いきることに必死の様なのだ。
 ジュリーの体調があまり良くないことはもう大分前から報道されて皆知っている。知っているからもう何もかもありのまま受け入れてあげようとする暖かい拍手と歓声がある。ジュリーはあえてそれをあっさりかわしてみせる。わざと無茶なアクションに挑んだりゼイゼイ走り回ったり、サーカス的なスリルを観客に差し向けてみせる。「仕事したくないねん」と報道陣に歯をむいていたエスケイプ期のジュリーが、今の自身の姿を見たらどう思うだろう。
 一通りのセットを消化してアンコールに応えた時に、やっと安心したのか長いMCが始まる。プロ野球の行方、阪神の行方について月亭八方の様に楽しげに語るジュリーにも客席は沸きに沸く。私の後方に居た中年男性客は「ダサイね、馬鹿にしてるよ」と不満気にぼやく。下山淳はルースターズ再結成にからまず、ジュリーのバックに参加しコーラスも振りもこなしている。
 はて杉良と比べてどうなんだろうと妙なことを考えてしまう。はて杉良太郎のファンはデブでよろよろの杉良にこんな暖かい拍手を送るだろうかとも思った。安かないチケット代を払って、デブでよろよろのジュリーを甘やかすおばちゃん連中も何だかなァ、という気持ちも吹き飛んだ。杉良のこと考えたら。
 杉良を取るかジュリーを取るかったら。誓ってジュリー。再結成ルースターズか振り付けまでこなす下山淳かったら。誓って淳。自分に自信がない時、くじけそうな時、負けそうな時に思うことは何ぞ。ならば自分に自信が有る男、くじけそうもない男、負けそうもない男ってどんな男かと。杉良?じゃあいいです、もう。僕もういいですわ。何が?