ウチの主人を男にして欲しいんである

 30円で30分間楽しめるチュッパチャプスなる舶来菓子が小中学生の間でブーム化したそのすぐ後だったと思う。チュッパの後追い商品としてペロチュ-なる国産の粉末ジュース付キャンディが発売された。本体のキャンディをなめては袋の中の粉末ジュースに(唾液を利用して)まぶしてはなめ再び袋の中に残った粉末ジュースに(また唾液を利用して)まぶしてはなめを繰り返すという猟奇的なエログロ菓子を思春期前の私も好んでペロペロしていた記憶がある。
 その後のグミーなどからもわかるように子どもにウケるこの類のジャンク食品にはどこか猟奇的でエログロな思考が隠れているものだなと感ず。オッパイアイスなんてもろエログロなヒット商品もあった。が、私の記憶によればオッパイアイスを人前でチューチューできる小学生は腕力もしくは学力の面で十人並みより抜きん出ている数名のみだったと思う。成績の低い子どもや家庭のすさんだ子ども、毛むくじゃらの子どもなどは本当は嫌いじゃないはずのオッパイアイスを人前では気後れしてチューチューできない層の一分子であった。あの頃オッパイアイスをこれみよがしにチューチューいわしていた童子たちは今何処で何をしているやら。
 今年の夏に深夜の特番バラエティーの中で久々に業界モデルとうひゃうひゃ戯れるたけし軍団の姿を見た。私はその様子にあのオッパイアイスにおける勝利者たちの現在を見た気がした。と、同時に思い出したのが「元気がでるテレビ」に取り上げられていた各地の良家のお嬢様たちであった。今になって冷静に考えてお嬢様ったって何やら犬神家の一族ばりの猟奇的でエログロな地方の豪農の娘たちの乱痴気振りを今一度観ておくべきかとも思ったのだ。
 北野武が国民的スター男優と役者志望の万年アルバイターの1人2役を演じる新作映画の紹介記事を各誌で読みそれらのもやもやした想いが勢いとぐろを巻き始めた。「良いことも悪いこともヒフティー・ヒフティーだと思ってんだ俺は」という以前のたけし発言と今回の映画は重なり合うものがあるのでは。どこまで勝ち進もうとさほど好き勝手な享楽が許されている訳ではない。が、許されている国も世界のあちらこちらには在るといえば在る。何故そのような国々では許される自由がわが国では許されないのかといえばそんなことは戦争に負けたんだから仕方無いだろうと言われればそれまでの話な訳で。負けた以上は許されない苦汁をこれ以上飲まされずに済むには再戦逆転勝利する他はないのだが。今度は勝てそうだから。勝とうではないか。などといった戦時下の戦意昂揚映画のごときアッパー感がてんこ盛りの今作なのかもと勝手に想像してみる。
 が、多分そこまで鼻息の荒い内容とも思えない。「映画で戦争しようぜ」と世界中の映画人を前に言い放った北野武監督の当時の心境と今ではまた少なからず変化があるのかもしれない。戦争に負けた国以外に生まれ育っていればもっとあっと言わせられるのにといったジレンマを海外制作という形で乗り越えようとした先人たちを間近で見てきたはずの北野武監督がそうした手段に出ないということは。亡命でもしない限りやはりロケーション以外には何も自由に見たり触ったりは許されないのかと。何を自由に見たり触ったりできないのかは国民的スター男優にしかわからない。わからない方が幸せなのか万年アルバイターには余計わからない映画なのかと。