こちらは戦後劣性コンジロームである

9月14日、三軒茶屋中央にて『戦後残酷物語』(68年大映)を観る。監督 武智鉄二。今回の武智鉄二特集の中で昭和四十年代生れの私が記憶していたのは81年の『白日夢』と83年の『華魁』か。『華魁』については当時12チャンネルの『金曜スペシャル』でメイキングが放映されていたのを覚えているが勿論劇場では観ていない。しかし私と同年代の男で成人映画体験は中学時代に『白日夢』、『華魁』を観たのが始まりと変に胸を張る者が少なくなくそれなりにセンセーショナルな作品だったのかとも。
その武智鉄二の60年代を今振り返りたがっているもそうした私と同年代の中年男らかと思えば客席は中年女性が意外と多い。ロマンポルノ同様60年代のエログロ文芸大作も現在の成人女性のアンティーク趣味のアンテナを刺激するものなのだろうか。三軒茶屋中央といえば亀有名画座、新宿昭和館無きあとも生き続けるたった一つの昭和のションベン映画館では。現行のションベン体制にプライドを持っているのはフライヤー、券売機、内装、掃除のゆき届きなどからひしひしと伝わる。こうした劇場で60年代の武智作品に触れられることは今とてもゼイタクな気がしないでもない。
公開当時と寸分違わぬシチュエーションで40年前のエログロ映画に魅せられた後は便所の朝顔の前に40年物の自身の男性器を引っぱり出してはこちらも感慨無量と。横井さんや小野田さん同様にジャングル生活から帰還した人つい最近もいたのにもう名前も思い出せない位話題にならなかったのは。世間的にもそんな人もう日本人じゃないじゃないと?そう言いきってしまえば『戦後残酷物語』に登場する時代のあらくれ達も今や日本人じゃないのかと。府中駅とはっきり看板まで読める街頭ロケの中に警官隊がトラックで押し寄せ道行く女性を荷台に続々と放り込み走り去る。行き先は市内の病院で目的は街娼達の性病検査だ。街娼だけを一人ひとり連行するのが困難なのでそんな荒っぽいことをするのだが間違えられて体を調べられ泣き叫ぶ一般女性には「交通事故にあったと思って」などと強引になだめすかして帰すのが病院の看護婦の役目。
こういうことは当時の戦後日本の都市部では日常茶飯事でしたよ、違いましたかといった激しい怒りが公開時は全体どんな層に突きつけられていたのか今では不鮮明ではある。府中駅だの八王子だのといった具体的な地名だけに当時の武智の激しい怒りと真逆の卑俗な好奇心たぎるばかりの私。「戦後は終っていない」。中央線は真っ直ぐなまま。