ヴィーナスの丘は始終回転中である

 7月27日、新宿へ。ニューアートの前に花園神社へ。手洗い場で六十代位のおばちゃんとカチ合う。お早ようございますか何か言われそうで目をそらす。何でそんなことがわずらわしいのか。無論宿酔いなのである。中途半端な呑み助から足を洗えない自分に改めてゲンナリ。せめて今日はいいステージが観られますようにと参拝をすます。
 ニューアートに着き出演者表を見やると井上千尋が出ているではないか。得した。が、トリ前の井上千尋のその前に出た空まことも名前こそお笑い芸人みたいだが圧巻の演技を観せてくれた。ダンスもR&B系のその種のコンテスト番組に集まるストリートダンサーの比ではない。ダンスで生計を立てているのだから当然か。それでもああいう番組に集まる少女達はまず劇場に足を運ぶことはないだろう。これ観たらブッ飛ぶのになァと思いつつ空まことの汗のかきっぷりに少しおののく。
 ほんの二、三分のクライマックスの間に雑巾をしぼったようにセンターステージがびしょびしょになってしまった。オリンピックでドーピング問題が初めて浮上した頃の王監督の発言にプロ野球界で同じ問題が取りざたされたら大変だなというのがあったのを思い出す。ストリップ界にドーピング問題は今後も浮上する訳ないと思うが。汗のかきかたが尋常じゃなくなるのは何をやっているのか知らん空まこと。やってると決めつけちゃ無礼か。
 健全か不健全か判別しそこなったどしゃぶりの汗は小屋主が床用モップで終演後拭いていたが。あれチョッと一走りしてハンカチで拭き上げとけばよかった。小屋主にも演者にも感謝された上にいいお土産になったのだ。
 で、お目当ての井上千尋ももちろんよかった。以前この場でちょっと意地悪なことを書いたがあの巨体も今では立派な個性かと。あの巨体でとうとう回るセンターステージの上でひざから寝ている上体を起こす力技を観せたのだから。彼女がここへきて何をそこまでがんばるのかといえばやはり荒川静香の影響かと。どうもそのことを考えるとこの娘もあの娘も荒川静香に負けじと大胆な力技仕掛けているような。しかしまさか荒川静香は劇場に足を運ぶことはないだろう。
 しかし私としてはせめてあの荒川静香のお父さんにはこの場に来て娘の計り知れぬ影響を見届けて欲しいのだが。そういえば劇場の客の平均年齢は大体荒川静香のお父さん位の歳である。この人たちには家庭があるのか知ら。そりゃあったりなかったりだろうが家庭のぬくもりの比ではなく劇場にぬくもり感じているのは言わずもがな。私は帰りますが。