草葉の陰からグッときちゃうんである

 10月17日、ポレポレ東中野にて『十二人の写真家』を観る。本作は1955年に写真雑誌『フォトアート』の創刊六周年を記念し読者に向けて製作された。公開は同年5月18日。銀座、山葉ホールにて現在でいうトークイベントが開かれそのメインプログラムとして一度だけ上映された作品である。
 戦後カメラブームの第一ピークであるこの年の国内のカメラ生産台数は初めて百万台を突破したという。ピアノやエレキギターと違ってまず手に入れてしまえば一応は自身のオリジナル作品といえなくもないものがすぐにアウトプットできるフォトアートの世界に当時熱狂した若者層とは一体どんな家庭に生まれ育った道楽息子達だったろう。
 本作に登場するそうした若者らの憧れのスター写真家、木村伊兵衛、早田雄二、三木淳、秋山庄太郎大竹省二らの照れ臭そうな撮影現場での仕事振りを映画は追いかける。まだテレビのワイドショーもドキュメントというジャンルも確立していなかった時代である。出演者の誰もが初めてビデオカメラを向けられた児童のようにそわそわとはしゃいでいる。
 この作品が今頃公開される意味というか狙いのようなものは読み取れない。が、この作品が当時からずっと幻の作品であった理由はそこにあるのかと。つまり皆初めての映画出演にガチガチにあがっていたり意味もなくおどけてみたりそれぞれポーズせずにはいられない様子が。当時は売り出し中の新人カメラマンがその後の高度成長期をはさんで急速にキャリアも肥大し『フォトアート』よりもド偉くなってしまったからではないかと。
 本作で私は若き日の秋山庄太郎を初めて観た。上島竜兵のような風貌に長髪でニンマリとモデルに歩み寄りくねくねとポーズ指定しながらシャッターを切る姿は晩年からは想像もつかない。秋山庄太郎からモデルに一枚お願いしていた頃の記録映像という点が本作の永い眠りを生んだ理由のひとつかとも。
 そして大竹省二。私の中の大竹省二とは昭和四十年代、日本テレビ『お昼のワイドショー』にて白昼堂々と家庭の主婦の裸像をオンエア―していた有名写真家でしかない。有名写真家にはなぜそのような魔力があるのか子供心には理解不能だったが。秋山庄太郎大竹省二も大正生まれで日本の戦後復興からモーレツからビューティフルな時代に至るまで常にトップランナーだった訳で。つまりグラビアカメラという分野では先に成功した人物なぞいない訳で。
 しかし大竹省二。表舞台でも充分イヤラシ気であった有名写真家の当時の舞台裏の記録は田が誰が為にフリーズドライ中?