天馬ルミ子の復活劇はスルーである

11月21日、フィルムセンターにて『源氏九郎颯爽記 秘剣揚羽の蝶』(62年 東映)を観る。監督、伊藤大輔。原作、柴田錬三郎が生みだした美剣士、源氏九郎なるキャラクターを私は知らなかったが源氏九郎モノは本作で3作目であるから当時はまずまずの人気ヒーローだったのかもしれない。演じるのは中村錦之助。個人的に時代劇スターの中で一番ゲンナリしてしまう私の錦之助アレルギーはいつから始まったのか。
恐らくはテレビ版『子連れ狼』のあのどうしようもない暗さと阿呆らしさか。本格剣劇の最中にバズーカ搭載の乳母車が大吾郎を乗せたままキカイダーのようなアクションを繰り広げると書くと今観たらけっこう面白いような気もするが。そうしたナンセンス極まるバトルシーンを演じる錦之助の凍りついたような表情が少年期の私には心底不気味だったのだ。拝一刀のキャラクターにどっぷりというよりは劇画チックにどこまでもキカイダー的小ネタが止まらない製作方針にもう何も言うことがないようなあの表情が。『8時だよ全員集合』のオープニングコントの中で本番中に馬鹿馬鹿しいな、もうとほぼ素に戻ってぼやいていた荒井注も同様にあの頃の私には怖かったが。
天下のスターがキレる寸前のままにギャグのような殺陣を無表情にこなしている姿は今観たらけっこう面白いような気もしてきた。が、テレビ版『子連れ狼』は今観れるのだろうか。大吾郎を演じた子役が成人した後に金銭トラブルから殺人犯になってしまった報道は記憶に新しいがあの事件からもう何年たったのだろう。ま、地方によっては『子連れ狼』も『あばれはっちゃく』も平然と毎朝やってますよなどといった所もあって不思議ではないか。
そして本作の美剣士、源氏九郎にも私の心は躍らなかった。まだ現役アイドル時代のピカピカの錦之助を観てもこれが10年後には暗黒期に突入しお馬鹿アクションにプルプル震えながら振り回されるかと思うと。結局本作で私がホッとしたのは北沢典子のカワイイ下女役だけ。以前ラピュタ中川信夫特集でトークゲストに北沢典子が招かれていたが私は足を運びそこねた。50年近く前にアイドル女優だった彼女をファンとして迎える勇気がなかったのだ。
しかし仮に彼女の側に立って考えるならば50年前の自分に胸キュンであるらしい水子霊のような男衆に囲まれるのもなかなか楽しい席だったろう。むしろ当時の芸能界での自分の立ち位置にあまり詳しくない底の浅いファンの方が安心して向き合えたはずである。北沢典子は今で言うとアイドル歌手の天馬ルミ子似のおぼこ。