あなたが我々と毎晩つるんでいた頃

9月17日、荒木経惟=写真、町田康=小説『俺、南進して。』を角川文庫で読む。奇跡のコラボレーション!革新的な写真小説の誕生と帯に記されるように町田康の中編小説とそれを映像化したようなまったく関係ない観光写真のような荒木経惟の写真群とのコラボ。小説の方はぼつぼつ忙しくなり始めた新人作家が昔のワル仲間に脅迫されてその収束のために敵方に乗り込む道中記。であるが主人公の俺は小説家なので私事のトラブルを片付ける一方で小説も書かねばならない。仕方ないのでただ今目前で起きているトラブルを適当に脚色したミステリー小説を書き始める。あなたが我々と毎晩つるんでいた頃あなたは実弾入りの小銃をオモチャにしていた。それで人を撃ったこともあると酔って我々に自慢していましたねと15年前に少しあった女から届いた手紙から現実シーンは始まる。面倒くさいがどうせ目的は金だろうと敵方の握る証拠のカセットテープ、SONY CHF46分を買い取ることも俺は考える。俺が書き進めるミステリーの中の主人公も問題のテープをどうやって敵方から取り戻そうかと悩み抜く。それらが一本のロードムービーの予告と本編のごとく交互にからみ合うのだが。クライマックスではどちらが現実でどちらがやっつけ書きのミステリーなのかわからなくなる。案の定金を要求してきた敵方を過失死させてしまった俺とそんな内容の小説を書き上げてとりあえず飯を食いながらまだ脅迫の件で頭を抱えている俺はどちらが現実の俺なのかはわからない。本作が発表されたのは99年9月。その頃のデビッド・リンチの映画のようなものすごく手の込んだ謎解き物にも徹底したなんちゃって惨劇あるいは生活の愚痴にも思える意図的半壊。文庫の解説は内田春菊で著者とは旧知の仲のよう。アラーキーの写真の中で著者と寄りそう女性は内田春菊に少し似ているがこれは恐らく町田夫人である。解説の中で内田春菊は私の子どもは町田さんに似ていますと誇る。主人が町田さんに似ているようでとも語る。15年前に少しあった女から脅迫される小説の解説に物騒なことを。町田康は自身のナマのスキャンダルを売りにするタイプの作家ではない。が、内田春菊は生鮮スキャンダル業者である。ここまでが小説『俺、南進して。』のエンディングと考えてよいのか。藤原新也の角川文庫もの同様に何やら臭う紙質。夢落ちカタストロフ文芸ばかり好んで読みあさる昨今の私。ダメだ。もう少しは先見なきゃダメだ。失って何。僕って何。80年代の純文学みないたこと言うからあの人も時々。あの人は俺か。