そう小沼監督にいわせれば小沼演出は

7月17日、小沼勝 著『わが人生わが日活ロマンポルノ』(国書刊行会)を読む。映画監督、小沼勝の生い立ちから青春期を、苦闘の助監督時代からロマンポルノの創生期、そして終焉までを自ら綴った自叙伝である。小沼勝は現在76歳。“膀胱ガンやら腰椎病やらで二十一世紀までは生きないという予想を裏切って、ヘッピリ腰ではあるが生き続けてしまった”昨今では02年公開の『女はバス停で服を着替えた』を遺作と定めてリタイアしている小沼監督。そこへ中学の同級生で元読売新聞社の編集者から“何でもいいから書いてみろと乗せられ”出版にこぎつけたのが本書である。日活百周年のこの際ならばお家騒動の内幕などもぶっちゃけられているかと思えばそうでもない。“途中何度も衝突することも”あった編集者側にはもっと暴露本的性格の著書にしたい意向があったのか。が、本来レイプ型人間ではない小沼監督が本書に暴き出したのは身内の恥より己の恥。“最初の射精は映画館の中だった。小学六年か中学一年生の頃、衝動的にトイレに駆け込み”といった序章から本書の性格は決定されたよう。大学時代に井の頭公園でデートした“飛びっきりの美女”を若き小沼監督はその後自身の下宿に誘う。下宿人の大半が隣室につめ寄り聞き耳をたてる中でラジオの音量を上げて彼女の肩を抱くも“どうしようもなかった”小沼監督だが。その彼女との記念スナップが顔出しで掲載されているのはなぜか。“今思っても口惜しくて、彼女にも悪いことをしたと悔やんでいる”その写真の彼女が健在ならば今こんなところに引っぱりだすのはもっと悪いことなのでは。あえて掲載することには何か思い意味があるのでは。これもヘッピリ腰ではあるが生き続けてしまった小沼監督の「サービス意識」なのか。そう小沼監督にいわせれば小沼演出は「サービス意識」なのだそう。主演女優の前で監督自ら助監督に全身をまさぐられ身悶えしあえぎ声を上げる阿呆らしくも厳粛な小沼演出。監督がそこまでやるなら主演女優も猫かぶりなぞしていられまい。井の頭公園を背景に若き小沼監督とポーズする写真の彼女はまだおすまし顔で少しばかり猫をかぶっているよう。その彼女には今ではもうどうしてやることもできないのだなと私は思ったがそんなドラマ付けは小沼監督好みではないのか。監督自身演出しながら本当に入れあげていたのは宮下順子という告白は意外な気も。いや本気で反応されては観客は蔑ろである。盟友・谷ナオミと撮影スナップの中で姉妹のように悶え合う小沼監督のチャームなこと。