70年代の花の妖精に40年後の今

7月6日、フラワー・メグの『ささやき・ためいき・もだえ 第二集』(13年Hotwax)を聴く。70年代初頭マスコミ中の話題をさらったお色気アイドル、フラワー・メグが残した貴重な音源、『ささやき・ためいき・もだえ』の復刻に刺激されてか40年ぶりに活動再開したメグの新録盤である。私は本作を始め72年版のもれトラック集かと思い込み聴いていた。そのくらい違和感がなかったのだ。肉声は老けないというか過去に一度商品化された肉声はそうそう老けないのかもしれない。本作のアートワークはサリー久保田。当然本人からの協力を得たであろう貴重な写真の中の若きフラワー・メグは今のローラのよう。ローラはサイケデリック・クラブで下着一枚で歌わないだろと言われそうだが今や伝説のその舞台の制作陣は“詩人の谷川俊太郎氏、ジャズ・ピアニストの池野成秋氏、グラフィック・デザイナーの粟津潔氏など”であるから当時鳴り物入りのデビューである。本作のオープニングは渚ゆう子三東ルシアもカバーした昭和のエレキ歌謡『さすらいのギター』。いかにもな選曲だが懐メロ歌手の復活盤にありがちな臭味がないと思えばプロデュースは高護。カルトGSの発掘者としても知られる高護がメグの復活にチョイスした楽曲は他にハマクラの『愛のさざなみ』からヴェルヴェッツのカバーにまでおよびラストは寺山修司作詞による『半分愛して』で締めくくる。“あたしを半分愛してください”というのはジャケ写に登場しない現在のメグのことだろう。“全部はいやよ 全部はこわい”という結びにはうなずけるような。70年代の花の妖精に40年後の今いきなり対面するのは確かにこわい。だが新録と気づく前の私は確かに本作のメグのもだえに反応していたのだ。白雪姫の肉声を持つ魔法使いの老女が現在のメグの正体なのだろうか。いずれにしてもまだ商品価値は半分あるのだ。『半分愛して』とはお互いに顔の見えない性愛、つまりテレホンセックスのことである。テレホンセックスなどと言えば都知事の醜聞記事のせいで随分と時代遅れで脂ぎったイメージがこびり付いてしまったが。本来あれは詩的でメルヘンチックな遊戯のはずである。街のコンビニで五十路、六十路の熟女グラビア誌がたやすく手に入る今だからこそ世の殿方にはフラワー・メグの『ささやき・ためいき・もだえ』に耳をかたむけてほしい。復活後のメグのその後の展開はどうなるのだろう。ライブもぜひ観たいのだが。“全部はいやよ”というのなら「半分」だけでも舞台に姿を見せてもらえたら。