会場で唯一夏服で汗みずくの大江は

3月16日、下北沢CLUB Queにて大江慎也&ザ・カッターズと、ザ・プライベーツのジョイントライブを観る。下北沢CLUB Queは地元商店街の雑居ビルの中にある生活臭がかつての渋谷ライブインを思い出させる。渋谷駅前にありながら会場にたどり着くにはビル内の青果店や衣料雑貨を通り抜けねばならぬあの生活臭は何やら教訓めいていた。「シーナさん今日はインフルエンザで病欠だって」と常連客の主婦らが井戸端会議を始めるQueの壁には80年代の宣材をあしらったロケッツの告知ポスターが。完全に鮎川家御膝元といった感の会場ならば大江も伸び伸びと演れるかどうか。対バンのザ・プライベーツの実年齢を感じさせない若く精悍なステージの後で一応先輩でもキャリア自体はブツ切れで短い大江がどう出たものかこちらが心配になってきたそのとき。現れた想像以上に縦にも横にも肥大した感の大江がセンターマイクをわし掴みにしてくわえ煙草で何かモゴモゴ言う。ともかく始めようというようなことを言うとバスンと演奏は始まった。ヤマジカズヒデのギターはルースターズの過去の名曲を忠実に再現する。商店街のBGMに80年代の洋楽ヒットのカラオケが流れてる際にこれは演奏者が原盤と同じ音を出そうとムキになってるなと気づくことがある。ヤマジも相当ムキになっているよう。過去の名曲を忠実に再現しても懐メロ歌手の悲哀はなく、開き直ったような野暮で重厚なスタイルには親しみがわく。大江の動きは昭和の悪役レスラーのごとくコミカルだ。が、興が乗って後期ルースターズの神経障害パフォーマンスをくねくね演じかけてフト思いとどまる時の「然し」といった眼の強張りに人間ドキュメントを感ず。過去の自分を茶化すことがそれほど痛快なことなのかどうか思いとどまっているよう。かつて十代の頃の私は後期ルースターズのロマンチシズムが巷で人気のアルフィーレベッカの数倍濃厚でもそれをより広く周囲に知らしめたいとは思わなかった。自分だけのヒーローにしておきたいという思いとも違う。私から見れば大江慎也なる人物は自分たちとは人種そのものが異なるのではと思わせるほどの圧倒的な距離感が当時はあったのだ。ならば今目の前にいるはちきれるほど肥大化した大江慎也はどうか。「サンキュージャパン、アーユーオールライッ?ダンスオールライッ?」と会場全体を包み込むように陽気に問いかける大江はやはり昭和の悪役レスラーのようでもあり古参の駐留軍兵士のようにも見えた。会場で唯一夏服で汗みずくの大江はすこぶる健康そうでストロングだった。