改めて押入れの奥に寝かせておきたい

10月27日、みうらじゅん 著『改訂版 ボクとカエルと校庭で』(青林堂工藝舎)を読む。本書は漫画家、みうらじゅんが87年から88年まで『ガロ』を中心に発表してきた作品を収録したもの。主人公のカエルのマイケルはのちにローリング・ストーンズの来日Tシャツに起用されたそう。巻頭の『イラマチオ山脈』でカウチオナニ族のマイケルは「一週間、ためにためまくったパッションを―」葉山みどり主演のAVで「イッキに抜く」のだが。一週間たまるとエマージェンシーだった35年前の自身を思い出すのは難しい。が、延滞金惜しさか余程観たい作品があったのか記録的暴風雨の中を雨具をまくり上げながら深夜のビデオ店までひた走った思い出もある。風営法の影響で深夜のテレビからエロ番組が排除された頃から10年も経つとテレ東のみが再びエロ路線に戻ったがみうらじゅんは確か『ギルガメッシュナイト』の後番組を担当していたのでは。本作にも登場する笑福亭鶴光に並んでみうらじゅんも下品なギャグを電波に乗せても許される徳のある人物かも知れない。笑福亭鶴光は48年生まれで深夜放送でブレイクしたのは30代初め。その年齢で中高生が食いつくエロ話ができるのは立派な人徳である。少年は下品なギャグそのものに狂喜しているのではなく下品なギャグで成功している芸人の人徳に狂喜しているのだ。みうらじゅんにも同様の人徳があったことは当時の『ガロ』にも同じくらいの画力と下品なギャグで台頭していた漫画家は何人もいたことが証明している。本作の中で下品ですまされないのは『野獣デカイ』の章に登場する浮浪者の描写か。ファミコンソフトの販売合戦に浮浪者をディフェンダーに利用するという設定は今やアウトだろう。それとは別に今一度何を笑っていたのか検証したいのが『ちんかすのだんな』の章の「俺に言わせりゃ」というギャグ。酒場の隅で討論するサラリーマンが枕詞として俺に言わせてるところを秘密警察に逮捕される様子を笑っていた当時の私は実生活では俺に言わせている人物のパシリだったことは思い出すべきである。今振り返れば「ちっとも受けないのでこの作品を最後にやめようと」していたみうらじゅんとその読者は時代のスノッブだったのだ。ボロは着てても心はスナフキンのような自由人のつもりだった頃の自身を振り返って楽しかったといい切れるだろうか。70年代なんてファッションも生きかたも含めて二度とごめんだねといい切る吉田拓郎が80年代になってもまだまぶしかったわけで。改めて押入れの奥に寝かせておきたい一冊。