便利屋の商売道具はモズライトである

12月22日、上野周辺をウロウロと。とんこつらーめんの店「貫ろく」にてみそ七百円を頼む。ライス、大盛り共にタダとは嬉しい。が、この種のサービスのある店は肝心のラーメンが三口もすすれば飽きてしまう無個性ぶりの場合が多い。「貫ろく」はちゃんと美味しい。何よ、貫ろくじゃない名前の通り。店内には私の知らない演歌歌手の色紙が何故か。演歌系の店なのか。最近のらーめん店にはハッキリと演歌系、つまり演歌の世界で仕事をしてきた人物がリタイア後に始めた店なのだなと感じる店は多い。演歌系の他には格闘系とかアニメ系とか。しかしアダルト業界からの流れで開店したらーめん店は世間に数知れずあるはずなのに外見では全く見分けられないのはなぜか。エロ系のらーめん店だなと客にうなずかれるようではやっていけないとでも。私なぞは別に店内にAVが流れていても、見た事も無い女優の色紙が飾ってあっても抵抗はないが。マスターが引退した男優だとお釣りをもらう手が多少緊張するかもしれない。かつての黄金の指かと。んなこと考えつつ「貫ろく」を去り、上野松坂屋の裏玄関にぼんやりたどり着く。
 スピーカーからヴィレッジ・シンガーズの「思い出の指輪」が。胸がキュンとなり便意ももよおしてきたのでトイレを求めて階段を。上野松坂屋にトイレを求めて階段を上り歩くのはこれで何十回目だろう。男子トイレに個室はひとつしかない棟しか立ち寄りたくないのだ何故か。で、決まって上っても上っても個室はふさがっていてとうとう屋上まで上りきってしまうのだ過去何十回と。屋上までたどり着くと岡田奈々の「青春の坂道」が流れ、曲が終わると男性DJがしゃべり始める。岡田奈々のレコードをかけた後に自宅マンションに強盗が入った話なぞするのは俗物に違いないと用を足しながら思う。まだ一体誰がしゃべっているのかわからない。が、このあと六階フロアでライブもやりますなどとしゃべるその男性DJの顔が見たくなり六階まで階段を降りる。と赤じゅうたんの敷いてある六階フロアステージの真裏までひょっこりでてしまった。セキュリティーらしき人につまみ出される気配も無い。フロアステージで白のモズライトを抱えたスーツ姿の出演者はエド山口だった。観客は30名弱。「今丁度350名ほど集まってます」とマイクで全館に呼びかけるエド。その後三十分のギター漫談を。私はこの日の朝になぜか無性にベンチャーズが聴きたくなり、ヘッドフォンで「シークレット・エージェントマン」をリピートした理由にたどり着いた気がした。
 エド山口も豊島区巣鴨育ちのご近所の星である。スーパーマルチタレントの看板は今時マルチもなんだから降ろしたとか。「今の私は芸能界の便利屋」で一般の主婦なども相手にカラオケ教室も開いているとか。バブル期に各社こぞって競作したが自分のは一番売れなかった「想い出の九十九里浜」にはやや胸がキュンとなる。エンディングの平田隆夫とセルスターズのカバーである「悪魔がにくい」には正直シビれた。帰り道には神保町のタクトにて元ネタの方の「悪魔がにくい」の入っている平田隆夫とセルスターズのベストCDを買ってしまった。が、エド山口バージョンの方がシビれたような。いやあのライブの熱気かやはり。30名弱の買い物客の足を止めヒールの先でリズムを取らせるだけのエレキ魂は五十代なかばも過ぎたエドにまだ息づいていると感じた。楽器のできない私のギターヒーローを見つけた日。